第02話 防衛省の思惑(2)- Side:天霧 星霞(本社)


 西暦2千年代から突如として出現したダンジョン。

 当初の日本政府はモンスターからの防衛やダンジョンから産出されるアイテム確保のために急ぎ人員を導入する必要があった。


 良くも悪くも、日本は世界有数のダンジョン出現国だったのだ。

 人手はいくらあっても足りない。


 しかし、ダンジョン災害へ派遣できる人材には限りがある。そのため、国民としてはいつ来るのかも分からない政府の支援など待ってはいられなかった。


 黙っていれば被害が拡大するばかりか、いつ自分の家族や友人が犠牲になってもおかしくはない状況だ。「政府は頼りにならない」と考えるのは自然な流れだろう。


 一般市民の中からダンジョンへと適応できた者は自衛のために「少人数でのチームを結成し、ダンジョン踏破クリアを目指した」というワケである。


 ダンジョン災害発生初期――彼らがまだ『冒険者』と呼ばれていた時代の話だ。

 さらに初めてダンジョン踏破クリアをした人間は自衛隊員でもスポーツ選手でもなく、一般市民だった。


 日本人が「民主主義のなんたるかを理解しているのか?」という問いは別にして、民主主義の欠点でもある「決定の遅さ」が政府への不信感を生んだ。


 法整備や技術が進歩した現代とは異なり、ダンジョン災害発生時に救援が「遅れる」という点については、誰もが容易に想像できた。


 つまり、国民が冷静に対処できた理由は皮肉にも、日本政府を信頼していなかったからだ。


 それよりも問題だったのは、日本人が自衛隊の存在意義を勘違いしていたことにある。


 自衛隊が救援よりも優先すべきこと――それは国の防衛であった。

 よって、災害時の救助活動は絶対ではない。


 有事の際「助けに来てくれる」という考えの方が間違っている。

 そのことを知っていれば、黙って助けを待つよりも「自分たちでダンジョンを攻略しよう!」となるのは自然な流れだ。


 特に、ここ北海道の場合、自衛隊の北部方面隊の本拠地であり、多くの駐屯地や基地が存在している。自衛隊や元自衛隊が多く住んでいた。


 自衛隊が熊を倒すことは、基本的に認められていない。

 道民なら、そのことを誰もが知っている。


 モンスターへの対処も同様にとらえたのだろう。

 また、ダンジョン内部の環境には、誰もが適応できるワケではなかった。


 ダンジョンには『万能素マナ』と呼ばれる未知のエネルギーが溢れているからだ。

 活動するには、万能素に対する適応能力が必須だった。


 つまりは「自衛隊員なら必ず対処できる」というワケではない。

 個人の適性を把握した上での班分け。長時間に及ぶダンジョン内での活動。


 バランスの取れたチーム構成。ダンジョンの特性にあった装備。

 当初はダンジョンに対する情報も少なく、装備も不十分で命の危険も伴った。


 そんな状況下では、専守防衛の自衛隊とダンジョンの相性は「とことん悪い」というワケだ。では、誰が活躍したのか?


 それは農家だ。鍬や鎌を使った近接戦闘。

 改造したトラクターを乗り回し、毒草を使ってモンスターを弱らせた。


 また、動物を捕まえるための罠を応用して、モンスターを捕獲する。

 もちろん、他の道民も負けてはいない。


 雪かき用のスコップや氷を砕くためのツルハシで戦う。こうして道民は近隣の農家と連携し、情報を共有しながら、協力してモンスターに対処したというワケだ。


 結果、才能ある個人が活躍することとなる。


(この場合の才能は『異能力スキル』ということになるのだろうか?)


 異彩を放つ人物たちが台頭した時代だ。

 それは若者ほど、可能性に満ちていた。


 そして、ダンジョン踏破により重要なことが判明する。

 ダンジョンを踏破したモノは「ダンジョン管理者マスターになる」という点だ。


 なぜ、ウチのような会社があるのかと問われれば、複数のダンジョンを踏破し、多くのダンジョンを管理しているからである。


 現在の日本においては、冒険者時代にパーティを組んでいた――当時の中高生からなる――人物たちの設立した会社が一般的だ。


 今回のダンジョン協同組合側からの通達によって、他の会社もウチと似たような状況になるのは明白である。


(つまりは、どこの会社も人員の確保が難しい……)


 人数制限の建前は探索者の安全確保であるため、改定によるルールには反対しづらく、世論せろんも簡単には動かないだろう。


 しかし、実際は現場を理解していない無能な老害の判断でしかない。

 一見「ダンジョンは大勢で入った方が安全」と思われているようだが――


(それはまったくの逆なんだよな……)


 ダンジョンを踏破できる人間は限られている。数の問題ではない。

 小学生を何人揃えても、プロ野球では活躍できないのと同じだ。


 また、ダンジョンは災害のため、出現と同時に最速で踏破する必要がある。

 今回のルールが適用されたことで、ウチのような少数精鋭の企業は効率が下がるだろう。


 つまりは未踏破のダンジョンが増え、災害が広がるということだ。

 今までは単独での作業が可能だったことが、3人で行わなければならなくなった。


 もちろん今は抜け道もあるだろうが――


(いずれはつぶされるんだろうな……)


 一方、人員を十分に確保することが可能で、ある程度の能力を持つ人材を多くそろえればいいだけの大企業なら、今までの運用と変わらない。


(そのメンバーではダンジョンの攻略は無理だろうが……)


 早急なダンジョン踏破が難しくなり、ダンジョン災害が広がる――という点に目をつぶれば、今回の改定は「大企業有利のルール」というワケだ。


 同時に防衛省幹部の天下り先は、そんな大企業となる。ダンジョン協同組合や大企業の役員となり、市民からの税金で私腹しふくやす。


(日本の官僚が考えそうなことだな……)



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「いやー、始まりましたね♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「前回がんばったから、帰っていい?」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^•ω•^ฅ「ここでは本編の解説やお知らせをしますよ」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「例えば?」


ฅ^-ω-^ฅ「JDってなに?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「ダンジョン協同組合のことね。『ダン協』とも呼ばれていて、ダンジョン攻略部門、研究開発部門、安全管理部門、金融部門(JDバンク)などのJDグループがあるわ」


ฅ^•ω•^ฅ「つまり、探索者のための組合だね」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ただ、現在は官僚の天下り先となっていて、腐敗の温床のようね」


ฅ^-ω-^ฅ「それは困りましたねー」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「日本では1970年代から注目されるようになったみたいだから……今更ね。特に1990年代には官僚の不祥事が続出して、天下り問題が大きく取り上げらたと聞くわ」


ฅ^-ω-^ฅ「私が生まれる前から!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「官僚としては、自身が再就職する企業の利益を優先するでしょうね。また、官僚が天下りすることで、企業が政府の意向に過剰に従うようになり、企業の自主性が損なわれる可能性があるわね」


ฅ^•ω•^ฅ「具体的には何があったの?」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「北海道だと『北海道拓殖銀行の経営破綻』が有名ね。まあ、バブルの影響もあるのでしょうけど、大蔵省出身の役員が多く在籍していたことが、経営判断に影響を与えたという見方ができるわね」


ฅ^•ω•^ฅ「バブル経済の崩壊だね、聞いたことある!」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「官民の癒着や税金の無駄遣い、バブル経済の崩壊、団塊の世代が嫌われる大きな要因ね」


ฅ^•ω•^ฅ「まあ、社長がなんとかしてくれるよね」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「だといいけど……今日は疲れたわ」


ฅ^-ω-^ฅ「じゃあ、続きはまた今度~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「それでは皆さん――」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「またね~、ばいば~い!」


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