プロローグ

Side:星霞

第01話 防衛省の思惑(1)- Side:天霧 星霞(本社)


に集まってもらったのは他でもない――」


 ダンジョン関連企業である合同会社ウォーヘッド代表社員『天霧あまぎり日照ひでり』(22歳独身)はスーツ姿でそう語った。


 いつもは大して座ることのない――というか、ノリで買ってしまった――大型エグゼクティブデスクへと腰掛けている。


 重厚な机の上に両肘りょうひじを立てながら、祈るような姿勢をとっていた。


勿体もったいぶらなくてもいいのに……)


 戸籍こせき上、弟である自分はあきれつつも、その感情を表情かおへは出さない。

 代わりに内心で溜息ためいきく。


 予想通り――いや、いつも通りと言うべきだろうか?

 日照姉さんはこちらの気持ちなど、一切いっさい考慮するつもりはないようだ。


「新入社員をスカウトしてきてもらいたい!」


 キリッ!――と彼女は言い放つ。本人としては格好を付けたつもりなのだろう。

 けれど、僕からすれば、そんな事はどうでもいい。しかし、


「いくつか質問をしてもいいですか?」


 申し訳なさそうに見えるよう、肘を曲げた状態で僕は右手を上げた。

 本来なら平然とした態度で接する場面なのかもしれない。


 けれど、彼女は社長兼姉である。

 可能な限りの敬意けいいは示した方がいい――という判断が勝った。


したしき仲にも礼儀あり――という言葉もあることだしね……)


なんだね、星霞せいかくん?」


 と日照姉さんは僕の名前を告げる。相変わらず、彼女は机に両肘を立てた状態でりかかったままだ。そのまま、両手を口元へと動かした。


 これが彼女の持つ社長像なのだろうか?

 間違っているな――と思いつつ自分は、


「まず、ここには僕と桃藤とうどうさんしかいませんよ」


 と口を開く。最初に「キミたち」と言っていたようだが、ここには彼女自身を含め、3人しかいない。もしボケで言っているのなら、ツッコミ待ちの状態だ。


無視スルーするよりはれた方がいいよね……)


 ちなみに桃藤さんは姉の親友であり、高校時代からの付き合いでもある。

 大学へも一緒に通い、今は社長秘書兼事務として姉を支えていた。


 髪型は前下がりのボブで、髪の長さはあご下の辺りまでとなっている。

 ロングヘアの姉とは対照的だ。恐らく、故意こいにそうしているのだろう。


 地味じみというのとは違うけれど、姉よりも一歩引いた印象を受ける。そこには一緒に並んだ際「社長である姉を引き立たせる」という意図があるようだ。


 姉の対応にはれているのか、それともあきらめているのか――彼女の奇行きこうに対し――気にめる様子もなく、自分の仕事をマイペースにこなしていた。


「いい質問だね、星霞くん」


 フッ!――と日照姉さん。きっと、ドラマか映画でも観たのだろう。

 気に入っているのか、その変なキャラを続けるつもりのようだ。


 悪の総司令にしか見えないが、そこはえて無視スルーすることにした。日照姉さんは、


「知っての通り、我が社の社員たちは優秀だが、数が少ない……」


 そう言った後「と言ってもいいのだが」と付け加える。


の間違いじゃないだろうか?)


 かさず、そんな台詞セリフが口から出てしまいそうになったが、自分は思いとどまった。

 性格や行動に問題があるのは確かだけれど、実際に優秀であることに変わりはない。


うそかなければいい――という話ではないけれど……)


 この場合「えて問題点には目をつぶる」といったところだろう。


「『るいは友を呼ぶ』ということだ……」


 フッ!――と日照姉さん。その「フッ!」というヤツは、やらないとダメなルールなのだろうか?


 大して意味のあることを言ったワケでもないのに、何故なぜか意味深に笑みを浮かべる。


 一方で自分の仕事が片付いたのか、立ち上がった桃藤さんはいつの間にか姉の横に立っていた。


(相変わらず、仕事が早いな……)


 自分がそんな感想をいだき、口にするよりも早く、


「JD(ダン協)の方から通達があってね、ダンジョン内へ立ち入る規定人数の内容が改正されたのよ」


 と教えてくれる。同時に「書類を作成したから承認をお願いね……それからWebサイトの方も確認チェックをお願い。問題がなければ、その内容で更新するわ」と姉に指示を出す。


 ちなみに『ダン協』とは『ダンジョン協同組合』のことで『Japan Dungeon Cooperatives』の頭文字をとってJDと呼ばれている。


 日照姉さんは「折角せっかく、キャラを作っているのに邪魔しないでよ」といった表情をしていたが、桃藤さんには効果がないようだ。


 自分は、そんな見慣みなれた光景に何故なぜ安堵あんどしつつ、


「ああ、確か危険という理由で20階層より深い『中深部』への立ち入りは『3人以上で』となりましたね」


 他にもいろいろと細かい改正内容はあったのだけれど、自分にとって重要に感じた部分だけを挙げる。


 そんな自分の言葉に反応したのは桃藤さんではなく、日照姉さんの方で、


「そ、要はウチのような少数精鋭の会社をつぶす作戦なのよ!」


 ブーッ!とほほふくらませた。もう変なキャラはめたようだ。

 いや、変なキャラであることには変わりないのだが――に戻っている。


 ちなみに合同会社ウォーヘッドの社員は、まだ高校生である僕を含めて6名。

 しかし、その誰もが単独でダンジョン踏破クリアできる実力を持つ。


 現状、人数を増やす必要もなければ、新たに人をやとって育成する余裕もない。また信用第一の仕事なので「単純に人を増やせばいい」というワケにもいかなかった。


 もちろん、一般人でもダンジョンへいどむことは可能だ。

 ダンジョン協同組合に属していなければ、改定されたルールを守る必要もない。


 だが、本格的にダンジョンへ挑む――つまりは中深部へ潜る――ことを考えるのなら『探索者シーカー』となる必要があった。


 探索者は簡単にいうと『ダンジョン探索を専門とする公務員』だ。

 個人でありながら、高い戦闘能力を保有する。


 そのため、探索者という職業を公務員にしたのは「国で管理する」というのが主な目的だろう。


 ダンジョン災害が発生して以降、日本はダンジョン災害大国となった。災害に巻き込まれた人間は自分の意思に関係なく、ダンジョン適合者となるケースが多い。


 日本政府は探索者という資格を与えることで「混乱に対応した」と言える。


 普段はダンジョン探索を主な仕事とする探索者だが、扱いは自衛隊と同じ防衛省の管轄かんかつとなっていた。


 そのため、有事の際は国の防衛のために尽力じんりょくしなければならない。

 逆に申請さえ行えば、有事以外は基本、何をしていても問題はない。


 ただ、僕の場合は北海道の担当のため、旅行などは制限される。

 当然だけど、逮捕や発砲の権限はない。


 たまに救助や医療支援、物資輸送などに駆り出される。さらにダンジョンへと潜るため、一定の危険はあったのだけれど、それ以上にメリットもあった。


 回復薬ポーションの購入や魔光兵器ブレイズギアの携帯が許されていることだ。探索者はダンジョン内において『種族』や『クラス』といった役割の設定が可能である。


 そして、設定した種族やクラスにより、習得可能な異能力『スキル』や『魔法』を保持することが出来た。


 そんな探索者にとって、他人に手の内をさらすのは問題がある。また、異能者であるがゆえに暗殺や他国へ拉致らちされるリスクも十分に考えられた。


 変な人間を組織に引き入れてしまったがために「大切な情報が漏洩ろうえいしてしまった」となった場合、探索者が狙われる危険度はぐっと上がる。


 それは絶対にけなければいけない事態じたいの一つだろう。そういった意味合いからも、姉さんは株式会社ではなく、身内だけで合同会社を設立した。


 所有と経営が分離している株式会社では、秘密を守る場合、なにかと都合が悪い。

 一方で日照姉さんの説明では不十分だと思ったらしく、


「防衛省幹部の天下り先確保のためでしょうね」


 と桃藤さんは付け加える。

 そんな彼女の台詞セリフに「まったくよ!」と姉さんは同意した。


 僕まで同意してしまうと話がエキサイトしてしまいそうなので、この場は黙っていることにしたが――


(つまり、ダンジョン協同組合は「防衛省の幹部職員が多数天下っている」という事を言いたいんだろうな……)


 先の大戦における日本の敗戦理由は「暴走した軍部」と言われていたが「日本の官僚制が最大の原因」という説もある。


 いったい、2人がなにを言いたいのか?――という事であれば「今回のルールの改定は大手企業にとって有利なモノである」という点だろう。


 裏にある理由として「政治家は企業からの献金を、大企業は自分たちに有利な条件を、そして官僚は天下り先をそれぞれ求めている」と推測したようだ。



🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️ 🍽️



*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*:._.:*


ฅ^•ω•^ฅ「カリンと~♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「フーカのー」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ- -ᐢ˵)「ティーダンジョン♪」


ฅ^•ω•^ฅ「いやー、始まりましたね♪」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「始まってしまった……作品のストックもないのに良くやるわね」


ฅ^-ω-^ฅ「こらこら」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「うー」


ฅ^•ω•^ฅ「ここでは本編の解説やお知らせをしますよ」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「します」


ฅ^•ω•^ฅ「早速、お知らせがあるようです」

(˶ᐢ. .ᐢ˵)「何かしら?」


ฅ^-ω-^ฅ「JKがダンジョンでお菓子を食べるだけの話と言いましたが……」

(˶ᐢ- -ᐢ˵)「アレは嘘です」


ฅ^>ω<^ฅ&(˶ᐢ> <ᐢ˵)「ガーン!」


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