第64話
応接室に入るとメアリは壁と同化してしまうのではないかと思うほど、ぴったりと背中を壁にくっ付ける。
しかも、イリネさんが座る椅子から一番離れている場所で。
メアリのために話は短くしなければ。
そのうち我慢できなくて怒鳴り声を上げてしまうかもしれない。
いや、ナイフを投げ飛ばすかもしれない。
こんな狭い部屋でそんなことされたら、大怪我を負うかもしれない。
40分ほど経っただろうか。
扉がゆっくり開き入ってきたのはしっかり服を着ているイリネさんと恋人のスク。
スクはダークグリーンの短髪と耳にはブルーのピアスをしている。
可愛らしい顔立ちをしているが性格はとても男らしい。
元闇市でイリネさんの絵本集めにも協力していた。
なぜ闇市を辞めたのかは知らない。
「お待たせ。ごめんなさいね」
イリネさんは椅子に座るとスクはすぐイリネさんの後ろに立つ。
「ちょっと頼みたいことがあります。裏切りキツネと女の子という絵本をご存知ですか?」
「知ってるわ。私は絵本のコレクターなのよ。アメリア、あなた殿下の絵本探しを付き合ってあげてるの?偉いわねぇ。今回はお茶会と違って逃げられないみたいね。まぁ、確かに本関連ならアメリアに頼ったほうが早く解決出来るわねぇ。あなたの周りにいる輩はどれも、素晴らしいから」
どうやら知っているらしい。
王宮の中に紛れ込ませている自分の部下から聞いたのだろう。
なら、話が早く済みそうだ。
「15年前に貰った絵本らしいです。今でも出版されているから珍しい絵本ではないのに、偽物と入れ替わってました。殿下の絵本には何か裏がありそうだと考えてます」
「そうねぇ。または、コレクターの仕業かもしれないわよ。殿下は人気だからね」
「そっちは騎士が探ってるはずです」
「………………鋭い子。分かったわ。内部は任せて。ただ、無償提供はしないわよ」
まぁ、そうでしょうね。
今回は、殿下の依頼だ。
依頼料は殿下に支払ってもらおう。
「依頼料は殿下から貰いますから。あとで金額を教えて下さい」
「悪い子ねぇ。そんなこと言われたらとんでもない金額を請求してしまうじゃないの」
「どうぞとんでもない金額にして下さい」
「そうさせてもらおうかしらって言いたいけど。正当な請求をさせてもらうわ」
分かっているようだ。
桁違いな請求なんてしたら怪しんで調べられてしまいそうだ。
「何か分りましたら手紙で知らせて下さい」
「分かったわ」
話は以上だとばかりに椅子から立ち上がった。
メアリはすぐに私の隣に来た。
そして、メアリはドアを開けるために手を伸ばした。
だが、その手はノブに触れることが出来ずに大きな手によって邪魔されてしまう。
「酷いわ。挨拶もしないで帰ってしまうなんて。私とあなたの仲でしょう?」
イリネさんはメアリの腕を掴んで自分の腕の中へと引き摺り込んだ。
そして、メアリは我慢の限界を超えてしまったのかイリネさんの股間目掛けて膝蹴りを繰り出す。
それは見事に命中しイリネさんはあっさりメアリを離してその場に蹲る。
スクはそんなイリネさんを見て呆れるように頭をゆっくり横に振っていた。
メアリは最後にイリネさんの頬に平手打ちしたあと応接室から出て行った。
イリネさんも学習しない人だな。
私も呆れながら出て行った。
廊下に出ると凄く機嫌が悪そうなメアリが私を待っていた。
「行こう」
「もう二度とここには来ません」
うん、そうしたいね。
本気で蹴ったからね。
あれ、不能になったかもしれない。
まぁ、去勢されて大人しくなるかもしれないか。
無駄に色気を飛ばさなくなるし。
メアリはイリネさんの家から出てもずっと機嫌が悪かった。
帰りにアップルパイを食べても。
これは、明日に響きそうだ。
は〜ぁ。
ー イリネ宅 ー
イリネは股間の痛さに耐えていた。
でも、少し嬉しい。
メアリが自分に触れてくれた。
幸せだ。
「イリネ。もっと違うやり方をしろ。あれではもっと嫌われる。いや、もうどうにも出来ないな」
「スク、あんたねぇ………………いたぁい」
「囲い込みは出来てるんだ。余計はことはするなよ。俺の努力が消えちまう」
「我慢が出来なかったのよ。スクだって同じじゃないの」
「俺はイリネと違って我慢出来る」
「だけど、外れたら私より酷いじゃない。壊さないでよ」
「壊さねぇよ」
イリネは冷たい床から立ち上がり応接室から出る。
向かった部屋は寝室だった。
大きなベッドだけが置かれているシンプルな寝室。
だが、その寝室は少々変わった作りをしている。
寝室の奥には出入り口とは別のドアがある。
そのドアを開くと寝室とは違った雰囲気の部屋があった。
窓はなく天井には白いフワフワな布が下がっている。
壁はピンクの花柄が貼られており、とてもファンシーな仕上がりだ。
家具は大きなベッドと化粧台に大きめなクローゼットとカウチソファー。
色は白で統一されており女性の部屋らしさが溢れている。
だが、イリネの家には女性はいない。
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