第63話

「もう結構です。どうぞ、お帰り下さいな」


「えっ?」


私の言葉にびっくりしたのかダンは目を大きく見開く。

もうダンには用がない私は読書を再開させる。


「アメリア嬢。まだ終わっておりません」


「いいえ、もう終わりました。だからお帰り下さい。結果は後日お知らせ致しますから。今日は私の時間でいっぱいですの」


「………………後ほど、騎士を送ります。ルーカス殿下からで自由に使ってくれ、と」


なんだって?

騎士?

邪魔だ。

凄く邪魔だ。

そして無理だ。

絶対に無理だ。


「不要ですわ。騎士達にはもっとすることがあるのでは?私の手伝いより他のことをするべきかと」


「アメリア嬢!」


私は完全に無視をした。

もう邪魔をされたくない。

メアリはそんな私に気づいたのかダンの目の前で塩を振っていた。

なんて素晴らしい侍女なのだろうか。

そんなメアリをダンは引きつった顔で見ている。

そして、もう無理だと分かったのか帰って行った。


「アメリア様」


「分かってる」


読んでいた本を閉じて立ち上がる。

きっと、騎士が明日来るだろう。

しかも、早い時間に。


「どうなさいますか?先程の話だと、その絵本には何やらありそうです」


「あそこに行く」


「行きます?どうしてもですか?」


「行く」


メアリはとても嫌な顔をした。

絵本のことなら絵本マニアに聞けってね。

それに最短で情報を得るためには彼のところを頼るのが早い。

急いで町娘の格好になり屋敷から出た。

向かった場所は古い建物の喫茶店。

ここの店主に用事がある。


「来てしまいましたね。もう二度と来ないと思ったのですが。あぁ、来てしまった」


「少しだけ我慢して」


「………………」


ドアを押すとカランカランと音が鳴った。

中は相変わらずメルヘンチックな店内だ。

古い外観とメルヘンチックな内観というこの喫茶店は巷では有名だ。

私はあまり好きではないけど。

どこもかしこもフリフリでカラフルで目がチカチカする。


「いらっしゃいませー。お客様は何名様ですかぁ?」


出迎えてくれた店員もフリフリな制服だ。


「ごめんなさい。店長はいる?」


「テンチョー?今は2階でお昼寝ですぅ」


仕事中にお昼寝?

全く、何をしているんだか。

夜に寝てないから昼寝なんてするのだ。

一度、店から出て裏側に回る。

そこには外階段がある。

それを上って2階に向かう。

ドアノブを捻ってみると簡単に開いてしまった。

これもどうかと思う。

本当に。


「イリネさん。いますか?」


呼んでみたが反応がない。


「いないようですが?いないなら帰りましょう」


メアリは本気で言っているようだ。

だが、ここまで来て手ぶらで帰るのも。

ハルに依頼するのもいいけれど………………

最終手段で考えたい。

だから、勝手に入らせてもらう。


「あぁ、不法侵入」


「寝ているから気づかないだけ。寝室はどこ?」


「奥の部屋ではないでしょうか?」


奥か。

廊下の端には本棚に収納できない絵本が置かれていた。

これ、歩くの大変じゃない?

狭い廊下なのに。

絵本を蹴らないように一番奥の部屋の前まで着くとドアを叩こうと手を上げた時だ。

何やら声が聞こえた。

それも普通の声ではない。

何かに耐えるような声とギシギシと動く音。

これは、大変な時に来てしまったか。


「出直しましょう」


後ろでメアリが私の服を引っ張る。

メアリも聞こえたらしい。

メアリは何度も頭を横に振っている。

私も邪魔するのはしたくないし、見たくもない。

だが、明日は騎士が来る。

今日しかないのだ。


「終わるまで喫茶店で待つ」


「………………はい」


ごめんねメアリ。

一旦引き返すためドアから離れようと動いたのと同時に閉じられていたドアが開いた。


「あらあら。あなた達じゃなかったら殺していたわよ」


「イリネさん。勝手に入って申し訳ございません。だけど、お願いだからパンツは履いて」


長髪の金髪。

中性的な顔立ちで体は細身。

女の口調で話すが胸もなければ女にない物が股間にあるから男で間違いない。

イリネさんは心も男だが昔の仕事の癖が抜けなくて女の口調のままらしい。

また、男女関係なく愛せる。


「あら、サービスよ。応接室に行って。すぐに行くから」


私の後ろではメアリが小さくなって隠れていた。

まぁ、イリネさんが後ろにいるメアリに熱い視線を送っているからだろう。

私と会話をしているのに私のことが眼中にない感じだ。

メアリが可哀想なので腕を掴んで応接室に向かう。

応接室と言っても貴族のような豪華な物ではない。

簡素なテーブルと椅子のみ。

そして、4帖ほどしかない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る