本の依頼

第62話

「はい?おっしゃる意味が分かりませんわ」


庭で美味しい紅茶と美味しいクッキーを食べながら読書をしてところ急にダンが来て探してほしい本があると訪ねてきた。

そこまではまだいい。

だが、そのあとが何を言っているのか全く分からなかった。

【ルーカス殿下が持っている本を探して欲しい】

いや、持ってるなら探さなくていいと思うけど。

何を言っているのかさっぱりだ。

だから、私は何を言っているんだ?と言った。

それに、連絡もしないで突然来るなんて。

一応、こんな私でも公爵令嬢という立場だ。


「殿下が持っているのなら探さなくてもいいのでは?」


「言い方が悪かったようですね。ルーカス殿下が持っている本は偽物です。本物を見つけて欲しいのです」


「なぜ、私に頼むのでしょうか?優秀な部下がいらっしゃるでしょうに。私には無理ですわ」


「そんなことはないでしょう。本を見つけ出すのは得意のはずです」


「何か勘違いをされておりますわ」


「探して欲しい本は絵本になります」


勝手に話を続けないで欲しい。


「絵本と言ってもかなり分厚いので小説と言われてもおかしくないでしょう」


「ダン様。ちょっとお黙りになって」


「ちゃんと依頼料を払いますよ。私達で探してみましたが全く手かがりが掴めないのです。困り果ててしまいまして。どうか手伝ってくれませんか?」


本狩り令嬢というあだ名消せば良かったかなぁ。


「私はただの本が好きな令嬢です」


「そうですか。それは困りました。きっと引き受けてくれると思ったのですが。今までたくさん逃げ回っていたのですから、このくらい協力してもいいかと思いますけど。今まで散々逃げていたのですから、ね」


………………。

うるさい奴だ。

殿下の本探しなどに付き合っていられない。


「お友達からの情報も相当なものでしょうね。本を愛する人達は独自のルートで見つけるようですから。普通の探し方ではダメなようです。噂だとアメリア嬢が持つ本はなかなか手に入らない本ばかりだとか?どうやってその本を手に入れているのでしょうか?是非、参考程度にお聞かせ下さい」


噂、ね。


「………………」


「本を探すなら本好きに聞けとルーカス殿下がおっしゃいました。お茶会のようにみんなの前に出ろとは言われていないのだから、本探しに協力してもよろしいのでは?それと、この件は公爵様にも了解済みです」


お父様、ね。


「………………詳しく聞かせて下さい」


ここで引き受けなかったら明日も来そうだ。

噂というものは怖いものだ。

そして、お父様も乗り込んで来るに違いない。

は〜ぁ、怠い。

ダンの話だとその本は伝染病が流行している故郷を救うために女の子が1人で王様のところまで旅をする物語。

なんだ、旅の話かと思ったが普通の旅の物語ではなかった。

その伝染病は国の転覆を狙った者の仕業だという。

女の子はそのことを知り王様にこのことを知らせるために裏切り者から見つからないように故郷を出たということだ。

絵本なのにとてもダークな物語だ。


「怖い物語ですね」


「本にはもっと優しく書かれてますよ」


「本の色は何色ですか?名前は?」


「赤色です。名前は裏切りキツネと女の子」


「裏切りキツネの女の子ですか」


「15年前に誕生日プレゼントで貰ったものでして。何度も読み返していたためか痛みもあったらしいです」


「すり替わっていたのですか?」


「はい。しかも、痛み具合も似させて。どうして、盗まれたのかは分かりません。ただの絵本なのに。珍しい絵本でもないですし。今でも出版されてますからね。ルーカス殿下は、それをとても大切にされておりました。偽物だと気づいたとき、ショックを隠せないほど」


なぜ、そんな本を盗んだのだろうか?

何か理由があるのでは?

この人は何かを隠している?


「それは本当にただの絵本ですか?私にはそう思えませんわ」


「本当にただの絵本です」


「嘘ではございませんね?」


「はい」


ダンの目は嘘を付いているようには見えない。

本当に普通の絵本?

なんだか怪しい。

危険なことはしたくないのに。

こんなことを私に相談してくるのもどうかと思うけど。

何かあった場合は責任とってくれるのだろうか?

それも考えてここに来た?

なーんにも考えないでここに来た可能性もある。

ここで、それを言ってもきっと「殿下の御命令です」って言うだろう。

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