第60話

「洗おっか」


「へっ?」


ハルは私を抱えて立ち上がりどこかに向かって歩き出す。


「ハル。止まって!どこに行くの?」


「シャワー室」


「えっ!?」


「匂いが嫌だぁ。だから、洗うのぉ」


着いた場所はシャワー室だ。

狭い場所だがちゃんと脱衣室もある。


「服、脱いでぇ」


ハルも一緒に入ってくるからびっくりだ。

流石にハルの目の前で裸になるのは嫌だ。


「1人で大丈夫だから。出て行って。廊下で待ってて」


「いいよぉ。でも、早く出て来ないと開けちゃうからねぇ」


これは早くしないとダメだ。

ハルが出たあとは凄い速さで服を脱いでシャワーを浴びた。

クンクンと自分の髪を嗅いで確認する。

よし、大丈夫だ。

服に着替えようとカゴの中を見ると、新しいワンピースが準備されてた。

まぁ、なんとなく分かる。

きっと、あのワンピースもローブも捨てられっちゃったなぁ。

悲しむ暇もなく準備されていた服に着替える。

新しいローブは軽くて手触りもいいものだった。

廊下に出ると壁に背を預けて立っているハルがいた。

ハルは私を見るとゆっくり近寄ってきた。

そして、クンクンと臭いをチャックする。


「大丈夫そうだねぇ。良かったぁ。あのままだったら何していたか分からなかったぁ」


怖いことをなんでもないように言えるってどうなのかな。

ハルに引っ張られてあの大部屋に連れ戻される。

大部屋に入ると真っ先に気づいたことがあった。

先ほどより人が少ない。

仕事でいなくなったのか、ハルがいるからいなくなったのか。

残っている人は見た目からしてベテランのようだ。

また、同じ場所に座るのかと思ったが違う場所に座る。

今度は3人掛けのソファー席だ。

3人掛けのソファーのため隣に座るのだが、ハルは私の腰に手を回して密着するようにしている。

特に重要な話ではなく町のオススメとか世間話的な会話で数時間ほど過ごすことになった。

そろそろ、夕方頃になっただろうか?

あと数時間頑張ればここから出られる。

あと少しだと思っていると誰かこちらに近寄って来るのが分かった。


「ハル。話し中に申し訳ないが、客から手紙だ」


フードを深く被っている男がハルに手紙を差し出した。

ハルは手紙を受け取り、読むのかと思ったがそのまま燃やしてしまった。


「おい、燃やして良かったのか?」


「いい。興味ないからねぇ。そんな暇もないしぃ」


「そうか」


「トキ、暇なのぉ?こんな時間からここにいるなんてねぇ」


トキ?

ハルは確かにトキと言った。

この目の前にいるのはトキなのか。


「暇ではない。誰の所為だと思っているんだか。どっかの誰かが遊んでくれたことで夫人が暴走した。娘連れて奴隷市場に行っちまってな。夫は心配し過ぎて倒れた。息子は父親が倒れたと聞いて屋敷に帰った。今日は指示が必要な日だったんだがなぁ」


「へ〜ぇ、それは大変だねぇ」


「…………屋敷に戻った夫人は大泣きだ。夫人の声を聞いて気絶していた夫が復活したが、娘が一緒に帰って来なかったと聞いてまた気絶した。流石に、場所が悪いから連れ戻せと依頼された。市場や行きそうなところに行ってもそれらしい娘は見つからず、手かがりがない。探していたらお前の客らしい奴に会って、手紙を渡して欲しいと言われた。先に手紙をどうにかしようと思ってここに来たらお前がいたってわけだ。ルンに渡そうと思っていたんだがな」


「そっか。その娘だけどさぁ」


「なんだ?」


「探さなくていいよぉ」


「何?」


ハルの探さなくていい発言にトキ声は低くなる。


「何か知っているのか?」


「うん。だって、俺のだからねぇ」


「………………何?俺の?」


「ここにいるし」


「ここに?」


トキはフードを取りジーッと私を見てきた。

でも、今の私はフードで隠している。

そんなに見ても確認できないのでは?


「服が違うな」


「嫌な匂いがしたからシャワー浴びてもらったのぉ。服も新しいのにしたぁ」


「本物か?」


「本物だよ。リア、声出して。大丈夫。悪いことは起きないから。馬鹿な奴はここにはいない」


馬鹿な奴っていうか、ハルが怖すぎて馬鹿なことが出来ないって感じだよね。


「トキ、お父様にそのうち帰ると伝えてくださらない?ちょっと、今は帰れないの。私より心を病んでしまったお義母様を優先して欲しいわ」


「リア、別にトキにお嬢様口調で話さなくてもいいよぉ。気付いていると思うからぁ」


「えっ?そう?なら、お父様にハルのことは伝えないでね。ここに私がいることも。本探しに夢中って伝えて。もし、伝えちゃったら大変なことになるかも。もちろん、あなたが」


「怖ーい。そんなこと言っちゃうなんてねぇ。こんな子に育っちゃって。悪い子だねぇ。誰がこんな子に育てちゃったのかなぁ」


「ハル。あなたの影響もある程度あるから」


「そう?そっかぁ。ちょっと嬉しいかもぉ」


嬉しがらないでほしい。

これは嬉しいことではないから。

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