第56話

真っ二つに斬られた者から皮が剥ぎ取られた者。

ニーズに合わせて様々の死体が売られている。

見たくもない物を確認していると近くにいた人から話し声が聞こえてきた。


『おい、久しぶりにいいものが入ったぞ!見たか?』


『まだ見ていないが。そんなにいい物なのか?』


『高貴な身分の死体だぞ。愛玩奴隷にもなっていない死体だ。仕上げもいい』


『ほう………………』


まさか、ねぇ。

そんな会話だけで確定できない。

この先にあるのだろうか?

ちょっと早歩きで先を進む。

すると、人だかりが出来ている一角があった。

そこに向かいチラッと覗く。


『見事だなぁ。これは芸術作品だ!』


『美しいな。口周りの皮が剥ぎ取られているのもいい。この絶妙な剥ぎ取られがいい!』


『白目もいいな。死んだ瞬間が分かる』


『髪が抜け取られたところもいい。綺麗な肌がパックリ割れて、唆られるなぁ』


題名は恋狂い。ディアンナ

恋に狂うとこうなるぞって?

自慢の髪も自慢の綺麗な肌もない。

あるのは頭皮が見えてしまっている頭とたくさん切られてしまった肌。

真っ赤な唇はなくなり肉と歯が剥き出しだ。

夫人に目を向けると震えていた。

これで分かっただろう。

もう死んでいることに。

そこから離れるために夫人を引っ張り歩かせた。

夫人は口を開く事はなかった。

夫人もああならなきゃいいけどね。

権力があっても守れるものでもない。

闇市は自由だ。

自由に出入りできる存在。

一度、招き入れてしまえがあとは簡単だ。

元の道に戻ろうと少し広い通路に出る。

ここまでくれば臭いも気にならないだろう。

夫人の手を離して前を向く。

すると、右手に誰か立っていることに気づいた。

身長の高さから男かもしれない。

それとなく警戒しながら道の端により通り過ぎろうとした時だ。

その男から人差し指を上に立てられこっちに来いと合図をされた。

………………。

爪の色、かなり見覚えがある。

真っ黒だった。

今は無視だ。

夫人をこのままには出来ない。

労働奴隷売り場から離れて急いで奴隷市場から出た。

乗合馬車まで連れて馬車に乗せる。


「私、少し用事を済ませてから帰るから。先に帰って」


「えっ?それは困ります。こんなところに残しておけませんよ」


「大丈夫。1人じゃないから。あとはお願い」


「ちょ、ちょっとお待ち下さい!アメリア様!」


メアリと一緒にその場を離れて奴隷市場がある方向に進むと物陰からその人出てきた。


「やぁ、ここで会うなんてびっくりだよぉ。最近、来なかったのに。ついに、買う気になったのぉ?」


ふざけた口調で話し出す声はハルだ。

いつから私に気づいたのだろうか?


「ちょっと寄ってきなよぉ。話したいことあるんだぁ。来るよねぇ?まさか、断っちゃう?」


それは闇市のこと?

ここから近いもんね。


「分かったけど、いつから気づいたの?」


「最初からだよぉ。俺の鼻は凄くいいのぉ」


………………。

何だろう。

機嫌が悪そうだ。

ハルに手招きされて道無き道を進む。

近道らしい。

少し歩くと怪しい雰囲気の場所に着いた。

建物はみんな黒く塗りつされ、異様な光景が広がっている。

そんな場所だが日常商品を売る店や宿泊施設など一応生活を感じるものはある。

まぁ、珍しいものや危険なものまで売っている店も多いが。

ここに住む殆どのものは堕落してしまった人。

つまり、闇市や裏側の仕事をしている人が住むところ。

奴隷市場もここにも来ないつもりだったのになぁ。

ハルに連れられて着いた場所は大きな家だ。

ここって集会所?

知ってるけど入ったことない。

団長もルン爺もここには来るなって言っていたのに。

ハルは全く気にならないらしい。

今は日中だから少ないことを祈ろう。

ハルはドアを開けてくれた。

私とメアリは恐る恐る中に入った。

まず、最初に感じたこと。

結構、人がいる!

長いテーブル席に間隔を開けながら座っている人たち。

これ、全員が闇市だな。

この部屋の正面にはソファーにダランとした状態で座るルン爺がいた。

私のことに気づくかな?

ハルみたいに匂いで気付く?

ハルが部屋の中に入ると周りの人たちが動きを止めた。

凄く警戒してる?

でもそれは一瞬ですぐに元通り………………

では、ないかもしれない。

話し声が小さくなったかも。


「こっちにおいでぇ」


ハルに案内されたところは一番奥の丸テーブル席だ。

メアリは座らないで壁側に寄る。

ハルは向かい側にあった席を自分の隣に移動して、私をそこに座らせる。

さて、ここからが困った。

ハルが黙り込んでしまったのだ。

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