第55話

また、個室だと愛玩奴隷の声もよく聞こえる。

どんな風に甘えた声を出すのか、それも重要視される。

見た目もそうだが甘える声も大切な商品価値となる。


『これ、試せるか?』


『はいはい。どうぞどうぞ。こっちに』


商人が奴隷を檻の外に出すのが見えた。

鎖を引っ張り個室へと入れる。

商人とお客さんも一緒に腰の中へと消えて行った。

チラッと空になった檻を見る。

檻の隅には金額が表示されていた。

愛玩奴隷の中では下の中くらいだろう。


「あそこに行ってみてはいかがでしょう?」


後ろからメアリの声が聞こえた。

あそこ、ねぇ。

夫人がそこに行って耐えられる?

かなり刺激が強いところだけど。

奴隷市場の端にあるところ。

労働奴隷と愛玩奴隷のどちらにも属さないところ。

そこは死体愛好家のための売り場だ。

死んでしまった者が液体の中に入れられて売りに出されている。

手足がある者もいれば胴体だけのものもある。

また、心臓や脳みそなど内臓だけのものも。

メアリの言うとおりに行ってみるか。

悲鳴を上げそうになれば口を塞ぐしかない。

気絶してしまったほうが楽なんだけどなぁ。

まずはここを見て回ってからそっちに行くしかないか。

順番に見て回っていると商人が1人の愛玩奴隷を檻に入れているところを見た。

すぐそばにはフードを深く被っている人もいる。

試しで出したのか?


『いやぁ、助かったよ。急に愛玩奴隷が次々売れちゃって。売るものがなくなっちゃうところだった。本当に助かったよ。また、よろしくね。依頼金はいつものところで受け取ってくれ』


『分かった。また頼む』


あぁ、なるほど。

どうやら商人が闇市かどっかのアマチュアに頼んだのか。

仕入れをしてくれって。

来たばかりの奴隷は少々目に光が残っている。

だが、明日にはきっと濁るだろう。

大人しく檻の中に入り、その場にゆっくり座るから躾はしっかりされている。

綺麗な子だ。

亜麻色の髪がサラサラと肩から落ちるのが見えた。

きっとすぐに売れるだろう。

そろそろ終わりだ。

あとは端に移動して死体売り場に行くだけ。

そこのお客さんはどれもヤバめだ。

また、闇市や裏職をしている人もそこにいる時がある。

お客さんの様子を見て売れそうな者を商人に売るためだ。

仕事上、人が結構死ぬため有効活用しているらしい。

愛玩奴隷の売り場を見終わりいよいよその売り場に向かう。


「これから向かう場所はかなりハードになります。悲鳴などは絶対にあげてはいけません。自分も愛好家だと行動して下さい」


小さい声で夫人に言った。


「それはどんな場所ですの?」


「死体売り場」


私の言葉に息を飲むのが分かった。

私はそれに気づかないふりをして歩き出す。

メアリは夫人の隣に付き一緒に歩いた。


「どうして聞かないのです?聞かないと分からないのでは?」


「聞きません。その人を探しているように言ってしまうと怪しまれますから」


詳しい容姿を言ってしまったら関係者だと分かってしまう。

商人は身分がある奴隷の殆どを把握している。

ディアンナ様は伯爵夫人だ。

そんな人物を探している私たちを怪しむはずだ。

あっ、そろそろ近いな。

腐敗の臭いが酷い。

密封しているからといって臭いは残る。

口と鼻を覆いたくなる臭いだが、私とメアリは塞ぐことなしない。

夫人を見ると塞いでいた。

その後ろにいる護衛は塞いでいなかった。

うん、素晴らしい。

ここの売り場にはやはり怪しい目を感じる。

どこかで見ているようだ。


『おい、この死体は妊娠していたのか?』


『はいはい。そうですよ。妊婦になりますねぇ』


『腹を裂く事はできるか?』


『あぁ、出来ますよ。このくらいの腹なら臨月だったかと。中身は?』


『入っている姿が美しい』


『左様ですか。では、これから準備致します』


『頼む』


聞いただけで嫌になる。

どんな理由で死んだのか知らないけど妊婦が液体に入れられていた。

目は大きく見開いて、少し目線は下だ。

その隣には頭と胴体が離されていた。

頭は背骨と繋がっていた。

つまり、背骨ごと頭が引っこ抜かれたって事だ。

チラッと夫人を見ると必死で口を塞いでいるようだ。

悲鳴を上げないようにしているようだ。

先に進むに連れてどんどんハードになっていく。

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