奴隷市場

第53話

雲一つない日。

空がとてもいい天気で空気も綺麗な感じがしたというのに、全く似合わない事件を聞かされた。

伯爵夫人ディアンナ様が行方不明で屋敷にいた者が殺されてしまったと。

狂った愛玩奴隷が数人だけ生き残ったらしいが、他は全滅だそうだ。

伯爵と子息は別邸にいたため無事だったらしい。

屋敷にあった宝石やお金は無事だったらしく財産は大丈夫だった。

伯爵家の存続はできる、ということだ。


「アメリア様」


「分かってる」


多分、ハルだろう。

ディアンナ様が生きているのか死んでいるのか分からない。

ディアンナ様の部屋は血で汚れている様子はなかったらしい。

その代わり、ベッドは体液で乱れていたと。


「ディアンナ様は生きておりますかね」


「どうだろう。死んでる可能性が高いけど」


ディアンナ様の事件で夫人は取り乱したようだ。

私が思っていた以上にかなり仲が良かったようだ。

まさか、ディアンナ様がこんなことになるとは全く思っていなかった。

公爵夫人としての振る舞い方やお茶会などの参加などディアンナ様からたくさん教わっていたそうだ。


「どうやら、生きていると思いたいのか奴隷市場に行って探すようです」


「えっ?それ本当?馬鹿なの?馬鹿だよね?馬鹿って言っていいよね?」


なぜ奴隷市場?

少し考えれば無駄なことだって分からないの?


「本当です」


「お父様は?」


「特に何も。警備を強化しただけです」


「つまり、気が済むまでさせなさいって?」


「そういうことですね」


………………。

確かにそのやり方もあるだろう。

だけど、あそこは夫人が行くようなところじゃない。

バンッ!!


「アメリア!頼む!!」


「嫌です」


「まだ何も言ってないぞ!」


また、突然入って来たお父様は何かを頼みに来たようだ。

最近、突然入って来るのが定番だなぁ。


「アメリア。お前はシンディと一緒に奴隷市場に行っていたな?私は知っているぞ!ルビアと一緒に奴隷市場に行ってくれ!」


そう来たか。

奴隷市場の構図はかなり複雑だ。

お母様は私を何度も奴隷市場に連れて行った。

だからなのか、頭の中に構図は入っている。


「嫌です」


「アメリア!!これは公爵当主である私からの命令だ!頼む!」


は〜ぁ、自分で行けばいいのに。

怖くて行けないのか情けない。

まだ、夫人のほうが度胸がある。


「アメリア様。いかがなさいますか?」


最後くらい親孝行する?

折角、夫人を公爵に招き入れたのにあっさり騙されて破産されてしまうのも………………


「お父様。条件がございます」


「な、なんだ?」


「服装をもっとシンプルに。出来れば、農業の雇い主風に。護衛は1人で。4人も5人も必要ないです」


「なっ!何!?」


「奴隷市場はゾロゾロと行くところではございません。そんなにたくさんで行ったら目立ちます。あそこでは滅多に襲われませんよ。狭い場所で暴れたら大切な奴隷に傷が付くかもしれませんからね」


「しかし!」


「駄目だと言うのなら行きません」


「ーーグッ!」


お父様は私の条件で許した。

さて、まずは私の服装からだ。

メアリに頼んで町娘のワンピースを用意させた。

そして、顔を隠すことも大事。

ローブを着てフードをしっかり被る。

メアリも同じような服装だ。

ロビーに行くと夫人の姿があった。

だが、行けるような服装ではない。

すぐに駄目出しをした。

アクセサリーをジャラジャラ付けない。

ドレスは脱げ、靴ももっと平ったく。

髪型も下せ、化粧はそんなに厚化粧しない!

メアリに手伝ってもらいながらなんとかそれっぽくなった。

夫人は凄く不機嫌だったが命を優先してもらいたい。

それから決まり事を言った。

まず、自分の名前も私の名前も出さないこと。

自分が公爵家の者と悟られないこと。

会話は小さく、あまり話さないこと。

護衛は公爵家で昔からいる者だ。

お母様のことも守っていたこともあるからベテランだろう。

奴隷市場までは乗合馬車で行く。

それも嫌がるから無理矢理乗せたけど。

4回ほど乗り換えて着いた。

目の前には大きな門。

この門を潜るとそこは奴隷市場だ。

奴隷市場に来る殆どのお客さんはローブを着てフードで顔を隠す人が多い。

その所為か怪しい人の集まりっぽい。

最初は労働奴隷の市場が広がる。

たくさんの檻の所為で通路は狭く他の人とすれ違う時は注意が必要だ。

檻の中には3人から5人の奴隷が常に入っている。

その中にはすでに死んでいる奴隷もいる。

なぜ、死んでいる奴隷を放置してるか。

それは生きている奴隷の餌として使われるから。

実際、奴隷が死んだ奴隷を食べているのを何度も見たことがある。

ここではそれが当たり前だ。

そうやって生きていくのだ。

ここでのコツは奴隷と奴隷商人と目を合わせないこと。

それを夫人ができるか?

無理だろうね。

だから、フード深く被らせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る