第48話

ハルは暗い夜道を歩いていた。

後ろからはトキが付いて来る。

後ろから付けられるのは好きじゃない。

一瞬、殺してしまうかと思ったがこれからのことを考えてやめた。

道の端っこでは労働奴隷が身体を丸めて寝ている。

寒いのか身体をブルブルと震わせていた。

ハルはそんな奴隷など全く気にする様子もなくこれから向かう場所を目指すだけ。

本当なら時間を掛けて遊びたいところだが、長く遊ぶと準備に影響が出るためやめておく。

真っ暗な道なのにハルにはよく見えているのか障害物があっても簡単にヒョイと避けて通る。

闇市は暗闇でも目がいい。

主に、暗闇で行動することが多いからか目が慣れてしまったのだ。

家と家の間を通り抜けて着いた場所はとても大きな屋敷だった。

鋳物で作られた門はとても大きく簡単に乗り越えられる大きさではない。


「トキ。俺の腕と足を縛ってぇ。すぐ外れるようにしてねぇ。でっ、担げ」


ハルはそのあとのことを話さなかった。

ここまで言えば分かるだろ?とでも言いたげだ。

トキは命令通りに腕と足を縛り自分の肩に担ぐ。

そのまま門を乗り越えて敷地に侵入し屋敷の中に入る。

前に何度も出入りしていたから部屋の場所は知っている。

この時間なら遊び場で愛玩奴隷と遊んでいるだろう。

遊び場の前に着くと中から声が聞こえた。

やはり、ここにいたらしい。

トキはゆっくりドアを開けて中に入った。


「遅くに申し訳ございません。例の件で伺いました」


ディアンナはベビードール姿でソファーに座って、ワインを飲みながら愛玩奴隷同士の交わりを見ていた。

ソファーのすぐ横には血だらけの愛玩奴隷1人とナイフが散らばっている。


「まぁ、トキ!!待ってましたわ!あら?その肩に担いでいる者は何かしら?」


トキは分かっているのに聞くのか、と思った。

愛玩奴隷に注がれていたギラギラとした目がこちらを見てくるからあまり気分はよくない。

生きている奴に見られても全く唆られない。


「例の男ですよ」


「まぁ!見せて頂戴!」


肩に担がれているハルは全身の力を抜けてダランとした状態だった。

目を閉じて気絶しているかのように振る舞う。

この男は演技も上手らしい。


「ここでは駄目です。早く檻の中入れてしまいたいので。地下牢でよろしいでしょうか?」


「えぇ、私も行くわ!」


ディアンナは羽織りを着て一緒に地下まで降りた。

地下牢はとても冷たく湿っている。

地下だから太陽の光など入ることがないためジメジメと湿っているのだ。

トキはハルを地下牢に入れて鍵を掛けた。

ハルを牢に入れる時、顔が見えるように寝かせたからディアンナも文句は言わないだろう。

ディアンナは美しい顔を見るために牢に近づきハルの顔を眺めた。


「あぁ、なんて美しいのかしら。本当にこの世のものとは思えない美しさですわね。トキ、約束の依頼料はいつもの場所にあります」


「はい。明日から調教を開始いたします」


「えぇ、分かりましたわ。今日はもう帰っていただいて結構」


「では、失礼いたします」


トキはディアンナに背を向けて地下から出た。

あの女、ずっと眺めるつもりなのか?

暇な女だ。

トキは言われた場所から札束を取り出し早々に屋敷から出た。

巻き込まれるのは勘弁して欲しい。

トキは集会に向かった。

集会の部屋に入ると先ほどより賑やかだった。


「おぉ!生きて戻ったか!良かったのぉ」


ルンの呑気そうな声が聞こえた。

さっきまでは飲んでいなかった酒をグビグビ飲んでいる。


「ハルは置いてきた」


「そうか。明日か明後日か。そう長くはならん。今のアイツは暇ではないからなぁ」


「アサのようにならきゃいいけどな」


「そこは大丈夫じゃろ。ハルだからなぁ。王族殺しもハルだったら大事にならんかった」


「後悔しても遅いだろ」


「ハルが暇だったらなぁ」


「ルン、言っちゃぁ悪いがハルだってアサと似たようなもんだぞ」


「まぁ………そうじゃな」


トキは怪我をしてる腕を掴んだ。

感覚がなくなっている、な。


「トキ、はよぉ手当てしてもらえ。使いもんにならなくなるぞ。ハルの奴は本気で投げたからなぁ。まさか、あそこまで刺さるとはな!あははっ!」


どこに笑うところがあった?

笑うルンを置いて別室に向かった。

そこには闇市専門の医者がいる。

別室に入ると白衣を着た男が棒付きキャンディーを舐めながら何かの液体を見ていた。

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