第46話

ー 闇市 ー


月が綺麗に輝いているある夜のこと。

天井も壁も床も黒い部屋では闇市の集会が開かれていた。

だが、特に話し合いをする様子もなくそれぞれが自由に動いている。

仕事が終わって椅子に座り酒を煽る者。

自分の仕事を取られたからと怒り狂い、暴れて近くにいた者と喧嘩をしている者。

自分の女を連れて歩きみんなの前で犯すことで快楽を得ている者。

ルンに仕事はないかと相談したが自分で探せと言われたことに怒りを覚え殴りかかろうとしたがルンの後ろにいた奴に殴られた者。

女が酒に酔って近くにいる男と殴り合いの喧嘩をしている者。

カードゲームで賭けをしている者。

自分の仕事の自慢をしている者。

本当に自由だ。

そんなうるさい部屋の端っこには凄く怠そうにテーブルに足を乗せてコーヒーを飲んでいるハルがいた。

ハルの周りには誰もいない。

なぜか、そこだけポッカリ空間が空いている。

誰もハルに話しかけない。

みんな、知っているのだ。

今のハルに話しかけないほういい、と。

今日は機嫌が悪い、と。

近づいたら一瞬で自分の人生が終わる。

昔、入ったばかりの女がハルに惚れて近づいたことがあった。

その時、ハルは凄く機嫌が悪く凄く遊びたい気分だった。

声を掛けてきた女を見てニイッと笑った途端、ハルはその場で押し倒し右の指を4本切り落とした。

賑やかだった部屋に響き渡るのは女の絶叫。

ハルは周りの目など気にすることなく、女をどんどん責める。

最終的には口から大量の涎を垂れ流し、身体をクネクネさせている女になった。

短時間でそこまで責め立てることができるハルの腕のよさを知らしめることになってしまった。

馬鹿な女がいれば男もいる。

これも、入ったばかりの男だった。

ハルのことを知らない男は態度が気に入らないとハルに喧嘩を売った。

最初は相手にしなかったハルだったが急に機嫌が悪くなり男を蹴り飛ばした。

何度も何度も腹に向かって蹴りを入れる。

男が気絶すると太ももに目掛けて果物ナイフをブッ刺した。

気絶することを許さなかったハルは痛みを与えて起こした。

その時の表情がとんでもない狂気な顔をしていて周りにいたみんなを凍らせた。

最終的に口から泡を吹いて身体を痙攣させている男になった。

誰も止めに入ることはしない。

ハルの機嫌が良くなるのなら誰かが犠牲になったほうがいい。

今日は誰も犠牲にならないのか?と誰か犠牲になってくれと願う。

だが、今日は馬鹿な若手はいないらしい。

ルンもピリピリしているハルをどうしようかと悩んでいた。

話したいことがあったのだが声を掛けるのは危険すぎる。

ハルと仲がいいアメリアのことを話題にして機嫌を取ろうとしても、今のハルには逆効果になるだろう。

『お前がリアの話をするな』とキレ出すだけだ。

時間が経てば機嫌が良くなるだろうがいつまで待てばいいのか分からない。

こればかりはハルの気分次第だ。


「どうしたもんか。おい、お前餌になれ」


「うへっ?俺?嫌っすよ!まだ死にたくないっす」


「なぁに、調教を体験するのも大事じゃろ」


「いや、体験とかのレベルじゃないっす」


ルンは後ろにいた男に犠牲になれと言ったが、男は全力で拒否をした。

首が取れるんじゃないかと思うほどブンブンと振る。


「話したいことがあったんじゃがなぁ。アレでは出来ん。老いぼれでもハルには関係ないからなぁ」


どうしようか、どうしようかと悩みながら後ろにいる男を見たが、男は全力で拒否をするだけだった。

そんな時、カランカランと音が聞こえた。

どうやら、誰かが部屋に入ってきたらしい。

ルンは確認するためにドアの方向を見ると金髪と頬に切り傷があるトキが見えた。

なんだ、小童ではなかったか。

今日の集会は若手が集まるようなものではないからなぁ、と思う。


「トキ。仕事はどうじゃ?順調か?ん?」


ルンはトキに話しかけた。


「問題ない、と言いたいところだが……」


「なんじゃ?そんな難しい顔しおって。珍しいな」


「馬鹿な夫人が馬鹿な依頼をしてきた」


「うん?なんじゃそれは?どこの夫人じゃ?」


「伯爵夫人ディアンナ」


「………………ほぅ、お前の元依頼主じゃな。今はハルが独占しちょろうが」


トキは更に眉間に皺を寄せて難しい顔をした。

余程のことが起こったのだろうか。


「夫人がハルを愛玩奴隷として欲しいと言ってきた」


「何?ほーう、それはそれは面白い!!こんなに愉快なことはないぞ!!今度はあの女か!!あははっ!!」


ルンは余程面白いのか腹を抱えて笑った。

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