第45話

「アメリア!」


大声で私の名前を呼んで部屋の中に入ってきたのはお父様だった。

今度はどうかしたのだろうか?

また、何か盗まれた?

それを私の所為とか?

いつものことだけど、相変わらず何も考えてない。


「お父様。今度はどうしました?何を盗まれました?私は無実ですよ。それとも夜会ですか?もちろん、欠席しますよ。まさか、この屋敷でパーティーをする予定でも?大人しく部屋にいますので。出席などいたしません」


「違う!!夜会も屋敷でのパーティーもない!誕生会が近いからな。皆、準備で忙しい。今日は確認しに来ただけだ。今回の誕生会だけは絶対に逃さないからな。何がなんでも最後まで出てもらうつもりだ!ちゃんと準備をしているのか!」


「今の私をご覧になって下さいな。ちゃんと準備してますわ」


「………………髪を切っているのか」


いや、気付けよ。

どこを見ているのか。


「そ、そうか。それならいいが、ド、ドレスはどうだ?送られてきたのだろう?」


「はい、素敵なドレスが送られてきました」


「もちろん、それを着るのだろう?」


「もちろんですわ。素晴らしい贈り物でしたので肌も髪も磨いてるところです」


「そ、そうか!そうか!ちゃんと出席するんだな?2分で帰らないな?会場に着いて一礼だけして帰ったりしないな?」


「大丈夫ですわ。今回は特別なことくらい分かりますもの」


「そうか。そうか。良かった。本当に良かった」


「お父様。誰かに言われて来ましたね?どこの誰に言われたのでしょうか?」


「なっ!そんなことないぞ!私はお前が心配で心配で」


嘘だ。

夫人のドレスのデザインをどうしようかたくさんデザイン画をお願いしているの知ってるから。

エリックの正装も同じだ。

きっと夫人に言われたのだろう。

私のことなんて全く気にしていない。


「ご心配なさらずに。しっかり準備しておりますから」


「そのようだな。素晴らしいドレスを贈られたのだ。台無しにしないようにな」


お父様は部屋から出て行った。

いつもいつも急に来る。


「ねぇ?知ってる?夫人のドレスは最高級の生地で作られるらしいよぉ。その生地にレースと宝石を飾り付けるらしいねぇ。夫人の初舞台だから張り切って作るらしいからねぇ」


ハルはいつの間にか隣にいた。

デザイン画決まっていたんだね。

宝石ねぇ。

一応、主役がいるんだけどなぁ。

主役より目立つのはどうかと思うけど。


「出来ました。このくらいでよろしいかと。では、お着替えをしましょう」


まだ、寝巻きのままだもんね。

ハルは全く気にしていないけど、いつまでもこの姿のままでいるわけにはいかないし。

別室に着替えを済ませ部屋に戻ると、ハルが勝手にベッドの上で横になっていた。

寝てる?


「どうやらお疲れのようですね。アメリア様。これをハル様に掛けて下さい。私が近づくと起きてしまいますので」


メアリからタオルケットを渡されゆっくりハルに掛けてあげた。

ふかふかで気持ちいいでしょ?

最高級のベッドだからね。


「メアリ」


「はい」


「昼食の時間、遅らせてくれない?少し、寝かせてあげようって思ったから」


「はい。そのようにいたします」


私の提案にメアリは優しく微笑みながら言った。

本当に不思議な関係だなぁ。

私が何もしないって分かっているからこうやって寝ているのだろうけど、ここは自分のテリトリーじゃないでしょうに。

呑気に寝ちゃって。

鼻でも摘んでやろうか?

いや、そんなことしたら酷いことされるか。

傷だらけにはなりたくない。


「んー」


えっ?

パシッーーグッー。


「アメリア様!」


………………。


「アメリア様………………どうやら、また抱き枕にされたようですね」


綺麗な寝顔を見て意地悪なことを考えた罰なのだろうか?

ハルが手を伸ばして私の腕を掴みそのまま引き摺り込んだ。

一瞬で自分の腕の中に収め、抱き枕状態に。


「アメリア様。これで4回目ですね」


「もう、慣れって怖い」


今起こすと機嫌が悪くなるのを知ってる。

体験済みだ。

ある程度時間が経ったら起こすか。

それにしても、ハルの身体が凄く冷たい。

なんでこんなに冷たいのか。

冷蔵庫の中にでも入っていたみたいに冷たい。


「メアリ。室温ちょっと高くして」


「かしこまりました」


なんで、この人は自分がここまで冷えているのが分からないのか。

痛みにも鈍いみたいだし。

は〜ぁ、私まで冷えてしまうではないか。

氷に抱きしめられてるみたいだ。

は〜〜〜ぁ。

寒い。

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