狂人な男
第42話
チュンチュンと鳥の鳴き声が聞こえる。
あぁ、朝が来たんだなと気づき起き上がる。
怠さが残る身体を動かしてベッドから出る。
太陽の光を室内に取り込もうとカーテンを開ける。
すると、眩しいほどの日差しが部屋の中に入る。
窓を開けて部屋の空気を循環。
「今日はとても気持ちのいい朝だ」
「アメリア様。もうお昼です」
「………………」
分かってる。
カーテンを開けた時に気づいたから。
あれ?太陽高いなって。
でも、私にとって今起きたばかりだから朝だ。
「今日のご予定はドレスの試着になります。誕生会の準備をそろそろ致しましょう。顔色もよろしくなってますし」
お母様から頂いたドレスだがまだ試着していないのだ。
直す可能性もあると考えて今日は試しに着てみることにした。
「少しずつ磨きましょう。あのドレスに合う顔色と髪質にして頂かなければなりません。もう、これはアメリア様の初舞台ですよ。かなり遅いお披露目です」
「初にして最後になるねぇ」
「気合い入れて着飾りましょう。シンディ様の贈り物ですからね」
「一瞬で終わるけどね」
「アメリア様。何も言わないで下さい」
「あはは!ごめん。ねぇ?メアリ」
「はい」
「返事はまだなのかなぁ。何か動きがあったんじゃないの?」
「そろそろお聞きになる頃かと思いました」
メアリの話によると婚約解消へと動いているらしい。
だが、とても慎重に動いている。
大事にしないように静かに手続きをしている、と。
誕生会の時に正式に発表するかもしれない、と。
次の婚約者は殿下の愛しい伯爵令嬢で決まりだ。
殿下もそれを望んでいるようだ。
お父様も殿下と私が解消することに反対していないらしい。
そこは安心した。
誕生会のタイミングはとてもいい。
みんなに知ってもらえるし。
「まずは昼食を食べて下さいね。それから試着して頂きます」
「はいはい」
昼食を食べてからお母様から送られたドレスを試着してみる。
リボン刺繍とスパンコール加工が施された黄色のドレスはとても綺麗だ。
職人の腕の良さが分かる素晴らしい細やかな刺繍は見事なものだ。
ちょっと肩の部分が出てしまっているが………………
ウエストのところは複雑で細かく編み込まれたリボンが飾り付けされていた。
「フリルも上品ですね。ふんわりしていてグラデーションも綺麗ですね。アメリア様は細い体型ですからこのくらいないとバランスが悪いです」
「ロングドレスなのに軽い」
「上質な生地ですからね。この国では扱っておりません」
へーぇ、扱ってない生地か。
「軽いからといって走ってはいけませんよ」
「大丈夫」
「ちょっと直すところがありますね」
メアリはドレスにいくつか印を付ける。
そして、ドレスを脱ぐ。
「それと、当日はそのピアスを外して下さいね。ダイヤモンドのピアスを付けるので」
私はいつもルビーのピアスを付けている。
ある日、ベンチに座っていたときに後ろからバチンッ!と耳に穴を開けられあっという間にルビーのピアスを付けられた。
凄く痛くて声を上げようとしたら口を塞がれるし。
しかも、その痛さをもう一回体験したのだ。
『誕生日プレゼント。ほら、凄く可愛いでしょぉ?』という呑気な声が聞こえ、ソイツの頭を殴りたくなったが我慢した。
殴ったら何されるか………………
何も言わないで気配を絶って後ろからやらなくてもいいのに。
ハルの奴め………………
「アメリア様。怖い顔です。やめて下さい」
「あの男、絶対許さないから。凄く痛かったのに。ヘラヘラと笑って、何が凄く可愛いでしょ?だ。本当に凄く痛かったのに」
「素晴らしい手際の良さでしたね」
「泣くのを堪えた私は凄い」
「泣いてしまったら苛められますからね」
「そんな優しいものじゃない」
本気で苛められたら死んでしまうじゃないか。
「大切に保管しておかないといけませんね。無くしてしまったら大変ですよ」
「鍵を掛けて保管しないとね」
このルビーはかなり価値があるものだろう。
ルビーは深い赤色を示すほど価値が高くなると言われている。
だが、濃すぎて暗く黒ずむものは価値が下がる。
ハルから貰ったルビーは深い赤色をしており吸い込まれそうなほど美しい赤色だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます