第37話

次の日。

夫人は突然だった。

部屋で本を読んでいるときにバンッと扉を開かれ着替えなさいと指示した。

何を言っているのか分からない。

なぜ、着替えないといけないのか。

だが、どうやら私のことを言っているわけではなかった。

夫人はビビに命令したのだ。


「そんな見窄らしい姿でお客様の前に立たせるつもりはないわ!さぁ!急いで着替えるの!」


ビビを無理矢理立たせた夫人はそのままビビを連れて部屋から出て行った。

私もメアリもポカンな状況だ。


「アメリア様。そういえば伝え忘れがございました」


「何?」


「アメリア様が苦手とするあの有名な伯爵夫人ディアンナ様が本日いらっしゃいます」


「………………それは大事なことじゃない?」


「昨日のことが衝撃すぎて忘れてしまいました。申し訳ございません」


「どこの部屋に案内するの?」


「遊び場かと。庭に繋がる通路は安全ですよ」


「………………今日は部屋から出ない。それが一番安全だよ」


「かしこまりました。では、少し早いですが昼食にしましょう」


「うん。そうする」


この時間にディアンナ様が来ると言うことは昼食をこちらで食べるということ。

忙しくなる前に私の分を作ってもらわないとね。

メアリはキッチンに昼食をもらうため部屋から出た。

私はソファーから立ち上がり本の整理をする。

たくさんあった本も今では数十冊ほど。

なんだか寂しいものだ。

部屋にたくさんあった本がこれだけになるなんて。

整理しながら待つこと2時間ほど。

メアリがワゴンを押しながら部屋に入ってきた。


「大変お待たせ致しました。本日はサンドイッチになります」


「ありがとう。で?何か調べてきたでしょう?だから遅れたってことくらい分かってる」


「はい。まず、ディアンナ様がご到着になりました。愛玩奴隷は10人。前回と同じ者はおりません。遊び場に案内され夫人と会話を楽しんでいるようです。いつものように自慢話でしょう」


「そっか。前に会った愛玩奴隷はみんないなくなっちゃったのか」


「死んでしまったか、売られたか。ディアンナ様のお遊びはとても派手ですから。体力がいくらあってもディアンナ様相手ではどうすることも」


本当にいい趣味をしている人だ。

切れ味のいい小型のナイフをいくつも揃えて、そのナイフで痛めつけるなんて。

少しだけの切り傷でも数が多い切り傷となれば死んでしまう。

メアリはテーブルに料理を置くと、私はサンドイッチに手を伸ばした。

タマゴのサンドイッチをパクリと一口。

フワフワのパンに挟まれたタマゴもフワフワだ。

甘さもちょうどよくて私好み。


「それから、闇市についても話をしておりました」


「闇市?」


「はい。最近、新しい愛玩奴隷を手に入れたようでして。それを調教した闇市を大層お気に入りのようです。よく依頼をするようですが、その闇市の容姿をうっとりとした表情で語っておりました。白い髪に陶器のような白い肌。瞳は赤く吸い込まれてしまうほどの美男子、と。どうにかして彼を手に入れたい、と。この世にこんなに美しい男性がいるなんて驚いた、と。是非、私の愛玩奴隷になってベッドの上で遊んであげたい、と。今まで顔を見ることが出来なかったけど、つい最近許してくれたの。依頼料と依頼回数をクリアすると見せてくれるのよ、と」


「………………」


凄くその闇市に心当たりがある。

もうあり過ぎるほどに。

あ〜ぁ、やってしまった。

これは絶対やってしまった。

食べかけのサンドイッチをお皿に置いて目を閉じた。


「アメリア様。聞かなかったことにしないで下さいね。私は、ちゃんと話しましたから。後から私全く聞いてない!なんて言わないで下さいよ」


やっぱり駄目?

だって、絶対聞きなくない内容だもん。

この状況でハルが関係しているものは全て酷い最後で終わるから。

今回も絶対酷いことが起きる予感だ。

ディアンナ様も見る目がない。

見た目に騙されて餌食になるだけなのに。

ハルを捕まえようとしても返り討ちにされておしまいだ。

闇市に所属している彼らを理解していない。


「誕生会まで保つかな」


「さぁ、どうでしょうね。ディアンナ様はすぐに手に入れないと気が済まない方ですから。しかし、請け負ってくれる者がいるのか………………」


「ハルの場合、物語のように楽しむところがあるから。上手に動くでしょ。いつも通りに掌で踊らせてバックリ!身震いしちゃった!」


「アメリア様。想像したら駄目ですよ」


だって、イメージ出来ちゃったんだもん。

笑うハルの姿がはっきりと。

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