第35話
青年の逃走事件から6日後のこと。
私の目の前には夫人の愛玩奴隷2人が立っていた。
ここは廊下だ。
しかも庭に面する廊下で私がよく通る。
そこに私を待っていたかのように立っていたのだ。
もう邪魔である。
「アメリアさん」
「はい」
「特別にこちらの私の愛玩奴隷を貸して差し上げます。あなたも学ぶべきです。本ばかり読んでないで」
「結構です」
「さぁ、ビビ。私の義娘をちゃんと愛して差し上げて。大丈夫よ。少し貸すだけだから。あなたは私のものですもの。では、お願いね」
夫人は私の話など聞かずに一番最初に来た愛玩奴隷を置いて去ってしまった。
どうやら、名前はビビらしい。
ビビは捨てられた子猫のような顔をしている。
捨てたわけではない。
新しいほうの愛玩奴隷を試すのだろう。
その間の面倒を見ろ、と。
試し終えたら返せと言ってくるはずだ。
そのうち、世話役も雇うはずだ。
「あなた、ビビというのね」
「はい、アメリア様」
「名前知っているのね」
「はい、どうぞ御命令下さい」
「一緒に来て」
「はい」
庭に出てベンチに座る。
「あなたも隣に座りなさい」
「はい」
「では、黙って寝ていなさい」
「はい?」
「寝ていなさい」
「………………」
ビビは何を言われているのか理解していないようだ。
寝てろって言ってるだけなのに。
「私は静かに本を読みたいの。分かる?あなたは黙って寝ているだけでいい。簡単でしょう?分からないことあるの?」
「寝るだけいいのですか?僕だけ?」
「そうです。寝なさい。睡眠は大事です」
私がよく言われている言葉だけどね。
ビビはそれから黙って目を閉じた。
私はその隣でただ本を読んだ。
本を読み終えた頃には夕暮れの時間。
それなのに夫人は来ない。
これは1日の話ではないのか?
隣で寝ているビビを起こす。
よく寝ていたから本当に睡眠不足のようね。
遅くまで夫人に付き合い、短い睡眠時間で身体はボロボロだろう。
部屋に戻ってからもビビをソファーに寝かせ私は本の整理をした。
「アメリア様。そろそろ夕食のお時間ですが。2人分でよろしかったでしょうか?」
「ありがとう。部屋に運んで」
「かしこまりました」
メアリは慣れた手つきでテーブルを引っ張り出し夕食の準備をする。
カチャカチャと音がするからなのかビビが起きた。
「よく眠れたかしら?」
「は、はい」
「あと少しで夕食の時間だから。一緒に食べましょう」
「一緒に?」
「そう。一緒に。ここでは私がルール。分かった?」
「はい」
少しするとメアリが準備できましたと言った。
今日の夕食はお魚がメインのようだ。
新鮮な野菜と温かいスープと出来立てのパン。
貴族の食事と比べるとかなり質素だがこれは私は頼んだものだ。
あんなにあっても全部食べられるわけがない。
このくらいにちょうどいい。
ビビにとって久しぶりのちゃんとしたご飯だ。
………………。
私は残酷なことをしているだろうなぁ。
は〜ぁ。
崖から突き落とすようなことをしている。
ビビはそんなこと思っていないだろうが。
これも【ルール】と思っているだろう。
「さぁ、食べましょう」
私とビビは静かに食べ始めた。
私語厳禁というわけではないが、特に話すこともないし。
食事が終わると入浴の時間だ。
メアリに頼んでビビをお風呂に入れさせる。
あとは準備した部屋に寝させれば終わり。
ビビがお風呂から出るとそのまま部屋に移動させた。
「今日はここで寝なさい。寝るだけ。朝まで寝ればいいの。分かった?」
「はい」
「おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
パタンとドアを閉める。
これでお守りは終わりね。
私もお風呂に入ってゆっくりしよう。
部屋に戻り備え付けのお風呂で身体を洗う。
お風呂から出ると冷たい飲み物が準備されていた。
「ビビは寝た?」
「はい。あれだけ寝てまた寝られるほど体力の消耗が激しいのでしょう」
「近々かな」
「この状況が続けばそうなるかもしれません」
冷たい飲み物をグイッと飲み干しベッドの上に飛び乗る。
「アメリア様。お行儀が悪いですよ」
「んー」
「もうお休みになりますか?」
「疲れちゃった」
「分かりました。それではお休みなさいませ」
部屋の電気が消され真っ暗だ。
は〜ぁ。
夫人も勝手だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます