愛玩奴隷

第33話

あの夢を見てから2日後のこと。

庭で夫人の愛玩奴隷を見つけた。

周りには誰もいなく1人でベンチに座っている。

首には金属の首輪が付けられており、足には重そうな重りも付けられていた。

儚い美青年風が夫人の好みらしい。

今にも消えてなくなりそうだ。

さて、彼は何やら不安そうな様子。

何をそんなに不安なのだろうかと考えたところ、そういえば新しい愛玩奴隷が来るんだっけ?と分かった。

捨てられてしまうのではないのか、と考えているのか。

彼にとって夫人は初めての主人なのだろうか。

それなら怖いだろうな。

どの愛玩奴隷も末路は悲惨だ。

………………。

私はゆっくり彼のところまで近づき目の前で止まった。


「ねぇ?そこは私の特等席なの。退いて下さいませんか?」


声を掛けられてびっくりしたのか驚いた顔をしている。

それもそのはずだ。

侍女からも執事からも声を掛けられることはないのだから。

自分から声を掛けない限り彼らは話さない。

彼は夫人の愛玩奴隷だ。

変にちょっかいを掛けて夫人が怒り出したら大変だもの。


「は、はい!申し訳ございません」


声まで消えてしまいそうね。

ちゃんとご飯食べているのかしら。

細い身体。


「こんなところにいては駄目よ。夫人のところに戻りなさい」


「は、はい」


………………。

ベンチからは降りたがここを離れるつもりはないらしい。

私はベンチに座り本を開く。


「なぜ、戻らないの?あなたは夫人の愛玩奴隷でしょ。夫人に尽くすのが仕事です。仕事をしなさい」


「仕事?ですか?」


「………………」


そうだった。

こんな言い方はおかしいか。


「あなたは夫人のお気に入り。早く夫人のお相手をしなさい。じゃないと捨てられるわよ」


コレ、本当。

移り変わりは早い人ってすぐに捨てるから。

捨てられたくないのならやることは一つ。

自分だけしか出来ないものを作る。

それしかないでしょう。

調教されてここに来たのなら頑張って能力を発揮するしかない。


「嫌だ。捨てられたくない。僕、僕はルビア様のことが大好きです。僕をたくさん可愛がってくれるルビア様が大好きです」


「だったら、ここにいないで夫人のところに行きなさい」


「分かりました」


彼は重りを引き摺りながら去った。


「アメリア様。彼は程よい調教をされているようですね」


後ろからメアリの声が聞こえる。


「そうねぇ。夫人のこと大好きらしいけど」


「知りたいですか?一応、調べてますけど。彼は高揚とした表情で「知りたくない!!メアリったら意地悪!」」


「申し訳ございません。でも、面白い営みだったので」


面白い営みなんか知りたくないから。


「ですが、アメリア様。手助けしてしまってよろしいのですか?」


「問題ない。私は、ここに座りたかった。それだけ」


「せめて、少しだけでもマシな方向に運べばよろしいですけど。彼がそこまで有能とは思えませんが」


「急に覚醒するかもしれない」


「そうだといいですね。ところで、例の愛玩奴隷拉致の件ですが。無事に攫えたようです。今は調教中です。しかも、この屋敷の地下牢で」


この屋敷の地下牢?

だから、さっきの愛玩奴隷は不安だったのか。

見てしまったのか。


「夜の間にこちらに運び込まれました」


「その調教はトキ?」


「はい。確実に追い込んでいますね。まぁ、誰かさんと比べると雑ですが。エリック様の話では優秀のようでしたけど」


「メアリ、比べる相手を間違っているから。化け物と比べちゃ駄目」


ハルは化け物並みだから。

カリスマ性が凄いとか言われているけど。

そんな優しい言葉で表現できないから。


「部屋に戻るかな。外は寒い」


「そうですね」


ベンチから立って屋敷の中に入る。

すると、少し離れたところから厳しく叱る声が聞こえた。

どこの誰が叱られているのか。

侍女がまたお皿でも割ったのだろうか?


『さっさと歩け!!』


「アメリア様。どうやら調教は表でも行うらしいですよ」


そうね。

右に曲がると薄い服装姿の青年が鎖に繋がれながら廊下を歩いていた。

恐怖で身体が震え上がり歩くスピードも遅い。

地下牢で調教するはずではなかったの?

どうしてこんなところで。

そう考えていたとき夫人の姿が見えた。

………………。

なるほど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る