第32話

「メアリ。さっきエリックが言っていた伯爵夫人ってアレだよね?」


「そうですね。きっとアレですね」



伯爵夫人ディアンナ。

彼女の周りには美しい愛玩奴隷がたくさんいる。

隣国から攫ってきた者やこの国の商家の者など様々だ。

そして入れ替えが激しく一日で死んでしまう愛玩奴隷もいる。

闇市に依頼して次々攫ってくるから死んでしまってもその日のうちに新しい愛玩奴隷が来るのだ。

敷地の奥には人を焼ける焼却炉を設置しているため、死んだらすぐに灰に出来るから始末も簡単らしい。


「なんでそんな人と友達になるかなぁ。もっとマシな人と友達になってよ」


「同類ですからね」


「………………」


でも、これで闇市との知り合った経路が分かった。


「これから、この屋敷も奴隷だらけね」


「そうですね。そうなる前に出て行きたいものです」


確か、伯爵も愛玩奴隷愛好家だったはず。

夫人よりかは数も少なくすぐに捨てるタイプではないけど。

幼女趣味で自分で育てたいという変態な男だ。

一緒にお風呂に入り一緒に眠る。

そんなことしているから夫婦の仲は冷え切っているらしい。

まぁ、御子息はいるから冷え切っていても問題ないだろう。

どの貴族も跡取りがいれば好き放題だ。

愛玩奴隷がいても愛し合っている夫婦がいるけれど。


「アメリア様。あと少しお休み下さい。明日からは自由に動けるようになりますから」


「そうね。ちょっと疲れちゃった」


私に影響がなければいいけど。

闇市は何を考えているのか分からない。

あのトキという男もだ。

あまり会わないほうがいい。

ベッドに潜り込みまた眠りへと落ちた。



***


木の実やきのこが自生している森の中。

そこで私は見てはいけないものを見てしまった。

そこには男2人と女2人の4人の人がいた。

何が原因なのか知らないがかなり揉めているようだ。

だが、4人の中の男1人は全く話に混ざろうとしなかった。

やがて話に混ざっていなかった男がいきなり動き出した。

それは一瞬の出来事。

男はもう1人の男の首を切り落としたのだ。

そして、目の前の女に男の首を投げ渡す。

女はその首を大事そうに抱え込んだ。


『あぁ、愛しい人。やっと私のところに戻ってきたのね。私、とても嬉しいの。さぁ、家に帰ってご飯にしましょうね』


女は既に壊れていた。

あははっと笑いながら女は川に飛び込み激流に飲み込まれてしまった。

それを笑いながら見ている女がいた。


『あーおかしい!!あの女、本当に馬鹿ね!!こんな男のどこがいいのかしらね?浮気を繰り返す男なのに。この男が私の愛玩奴隷になりたいって言ったからなのに!イライラする!!もう!!!こっちは金までかけて美しい男にさせてやったのに!無駄だったじゃないの!』


女は首がない死体を蹴る。

ゴキッという骨が折れる音がしても女は蹴り続けた。

腕も足もおかしな方向に曲がったところで女は蹴るのをやめた。

そして向かった先は首を切り落とした男のところ。

女はゆっくり腕を伸ばし男に抱きついた。


『あぁ、あなたは本当に美しいわ。あなたは私のもの。あなたは私を裏切らないのよ。だって、こんなに愛し合っているもの。愛しているわ』


女は男の背中から服の中へ手を差し入れて弄る。

男はそれに応えるように女の背中にあるリボンを解いた。

そして、男はゆっくりその場に女を押し倒して慣れた手つきで女のドレスを脱がす。

首筋に噛み付くようにキスを繰り返す姿は情熱的に愛し合っているかのように見えた。

そう、見えたのだ。

いつの間にか女の口から大量の血が溢れ泡も吹き出していた。


『もう飽きた』


男から聞こえた言葉は自分勝手なものだった。

飽きたから殺す。

ただ、それだけ。

男は私の存在に気づいたのかニヤァと笑いゆっくり近寄ってきた。

いや、最初から気づいていたのかもしれない。

こんなことをしているのなら気配に敏感に違いない。

私はこちらに近寄って来る男の顔を見ることができた。

その顔を見てびっくりした。

なんて美しいのだろうか。

顔の作りがとても綺麗で今まで見てきた愛玩奴隷よりも美しい。

白い髪と色白な肌の所為なのかより一層美しく見える。

だけど、それだけではなかった。

真っ赤な瞳から感じる毒々しいもの。

見られているだけなのにこの息苦しさ。

この男まるで………………

【白蛇】



***



「ハッ!あぁっ………ハァ」


飛び上がるように起き上がった。

久しぶりに見た。

最近は見なくなっていたのに。

大きく深呼吸をした。

外はまだ暗い。

どうやら夜中のようだ。

何かの前触れ?

もう嫌な夢を見ちゃったかも。

これも、あのトキとかいう闇市の所為かもしれない。


「もう見たくないのに」


ベッドの上で膝を抱えながらそう呟いた。

あの時が一番怖かった。

トラウマになってしまうほどに。

私の身体は震えていた。

その震えを止めるために身体を小さくする。

あとは震えを止まるのを待つだけ。

こうやっていればそのうち止まるから。

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