第30話

次の日。

熱を出して寝込んでしまった。

久しぶりの風邪を引いてしまいバルが驚いていた。

風邪を引いた本人である私も驚いている。

風邪なんて小さい頃しか引いたことなかったのに。

丈夫が取り柄だというのに。


「アメリア様。今日はゆっくりお休み下さい。絶対に本は読んではいけませんよ」


ただ寝るだけって暇なんだよね。

そんなに熱も高くないし。


「いいですね?ちゃんと寝て下さいね!」


「分かってる」


早く治さないとこれでは全く動けない。

ふぅ、と溜息をして目を閉じた。

目が覚めたのは夕方。

部屋の中は静かで物音もしない。

メアリは部屋の中にいないのでどこかで仕事をしているのだろう。

メアリがいないことを確認したあとで気付いたのが身体の怠さがないことだ。

とてもスッキリしている。

頭の中もクリアに感じる。

久しぶりにたくさん寝たって感じだ。

なんかお腹空いてきたなぁ。

シェフに頼んで何か作ってもらうか。

羽織りを肩に掛けてベッドから降りる。

そして部屋から出た。

静かな廊下はとても心地良い。

最近、バタンとかギタンとかうるさい音ばかり………………

あれ?

なぜこんなに静かなの?

………………。

何?この胸騒ぎ。

辺りを見回しても特におかしな様子はない。

………………。

キッチンに急ぐか。

キッチンに着くと慌ただしく料理をしているシェフがいた。

シェフは見習い達に命令を出しながらたくさんの料理を作っている。

一体、何事?


「アメリア様!どうかなさいましたか?熱は大丈夫ですか?」


私に気付いた見習いの1人がフライパンを振りながら言った。


「大丈夫。お腹が空いたから来たのだけれど忙しそうね」


「そうでしたか。お粥を作っておきましたからお召し上がり下さい。あと、またそのような寝巻き姿で歩き回ったら駄目ですよ!バル様に怒られてしまいます!」


「着替えるの面倒だもの」


「全く。お部屋にお持ちしますのでお戻り下さい」


「えぇ、ところでなぜこんなに忙しいの?」


「お客様がお見えになっているからです。すぐに料理をお持ちしろとのことで」


「そう………………」


だから、こんなに忙しいのか。

邪魔しちゃ悪いか。

キッチンから出て廊下に出る。

部屋に戻って待つしかないか。

体調も回復したし本を読んで待つしかない。

何を読もうかと考えながら廊下を歩いていると前から誰かの歩く音が聞こえる。

誰だ?

………………。

この音。

おかしい。

小さすぎる。

なぜこんなに胸騒ぎがするのだろう。

何か見落としてる?

何を?

ここまで歩いて廊下では誰にも会わないし。

ーーコツッ。


「なっ!」


気配を感じて後ろを振り向くと黒いローブを着た金髪の男が立っていた。

前から感じていたのに後ろから?

この人、闇市か!

だから足音に違和感があったのか。

【闇市は仕事の時は足音を出さないように歩くが、それ以外はちゃんと足音を出す。だけど、癖ってなかなか消えないものだから普通の足音より小さい】って団長が教えてくれていた。

それに当てはまる!

金髪の男は無表情だ。

頬には酷い切り傷がありあまり見ないほうがいいだろう。

なぜ、ここに闇市がいるの?

まさか、誰かが依頼を頼んだ?

………………。

誰?


「君、応接室まで案内頼めるか?この屋敷は広い。道に迷ってしまって戻れなくなった」


「かしこまりました。ご案内いたします」


どんな依頼だろうか。

お父様が頼んだの?

今までそんなことなかったのに。

………………。

まさか、夫人か?

応接室までの道のりが異様に長く感じる。

だから静かだったのか。

こんな危ない人がいるのならそれは静かにもなるか。

うるさいってだけで殺されたくはない。


「ところで、なぜ君はそんな姿で歩いているのかな?」


「………………寝込んでおりました」


「なるほど。それは辛い。身体の調子が悪いのに頼んでしまってすまないな」


「いいえ、すぐに着きますから。ほら、着きましたよ。ここが応接室です」


応接室のドアの前まで案内すると男は「ありがとう」と言って中に入った。

私は急いで部屋に戻る。

部屋に戻るとメアリがいた。

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