第29話

鎖は奴隷の首へと繋がっているためとても苦しそうに踠いている。

きっと、自分で立つ体力もないのだ。

それなのにあんなに引っ張るものだから首が閉まって苦しいのだろう。

可哀想だけど助けることはできない。

それがここでのルール。

周りの人達もそれを見ているのに気にすることなく急いで走っているだけだ。

私もそれを黙って見ながら通り過ぎた。

雨が先ほどより酷くなり遠くから雷鳴の音が聞こえる。

ピカッ!と輝きゴロゴロと音が鳴る。

こんな酷い雨なのに奴隷は家の中に入ることを許されない。

道端で身体を丸めて体温を出来るだけ逃さないようにするだけ。

明日は何人の奴隷が道端で死んでいるのだろうか。

明日は何人大型の焼却炉で焼かれてしまうのだろうか。

そう考えてるだけで嫌になる。

滅んでしまえ。

何度もそんなことを思ってしまう。

だが、隣国が攻めてもなかなか倒れないだろう。

この国の軍事力はなかなかだ。


『キャーーーーーッ』


突然、女の悲鳴が聞こえた。

何かあったのだろうか?

凄い雨で視界が悪く遠くのものが分からないけど、前のほうで何かあったみたいだ。


『うわーーーーーっ!』


今度は男の声だ。

その声は段々近寄ってくる。

これか危険だと判断して急いで道の端に寄った。

すると少し離れたところで男が何かに怯えた顔で走って来るのが見えた。

後ろからも数人の人達。

またその後ろからは腕から血を流す女も走って来るのが見える。

何かに追われている?


「隠れたほうがいいですね。こっちです」


メアリに促され大きな看板の後ろに隠れる。


「あの女性の血の量は危ないですね。事故ではないかと」


「………………闇市」


「その可能性は高いですね」


『イヤーーーーッ!!アガッ!』


けたたましい声が響く。

先ほど逃げてきた女の声だろうか。

女の声はそれが最後で聞こえなくなった。

きっと殺されてしまったのだろう。


「やはり闇市の者です。派手に殺しますね。人に見られながら殺すのが好きみたいですね」


メアリは隠れながら様子を伺っていた。

どうやら、まだそこにいるようだ。

私も少し身体をズラして隙間から覗く。

そこには地面に血だらけで倒れている女と幸福そうな表情で立っている男だ。

男の手元にはキラリと光るナイフが握られていた。

男はゆっくり屈んで女の髪を掴み、首にナイフを当てていた。

ナイフを上下に動かしていることから首を切り落としているのが分かった。

依頼主の指示なのだろうか?

切り落とした首を袋に入れた。

今度は両手と両足を切り落としそれも袋に入れる。

これで終わりなのかと思ったが男はさらに女の服を切り裂く。

まさか、死体を舐め回す趣味でもあるのだろうか。

そう思ったが違うらしい。

胸元から腹に向かってナイフで切りつけ内臓を引き摺り出したのだ。

しかも楽しそうに地面にぶち撒けている。

どうやら中身を引き摺り出すことで快感を得るタイプのようだ。

ああいうタイプは肉も食べてしまう。

男は殆どの内臓を引き摺り出したのか袋を持ってその場を立ち去った。

その場に残ったのは胴体だけ。

辺りは内臓がそこら中に転がり真っ赤な血の溜まりが出来ていた。

死んだ女は何をやったのだろうか。

寝取りか裏切りか。

服装からして身分は高い者だとは思う。

闇市に依頼されたらもう逃げられない。

殺されるまで追いかけられる。

ある貴族が闇市に狙われた。

たくさんの警備を雇い自分の身を守ったそうだが、あっさり進入されて寝室で殺されてしまった。

配置していた警備の殆どが殺されてしまっていた。

それも争うことなく背後から一撃だったようだ。

次の朝、仕事で来た商人が屋敷の悲惨な状況に気づき通報。

屋敷の中は血で汚れ酷たらしい光景が広がっていた。

そんな状況でも騎士団は闇市を排除しない。

貴族の中でも闇市を使うものも多い。

それに闇市は簡単に崩れる組織ではない。


「どうやら行ったようですね。屋敷に急ぎましょう。雷鳴の音が近いです」


「そうね」


目の前で恐ろしい光景を見てしまっても身体が震えることなくバシャバシャと音を立てながら屋敷へと急いで戻った。

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