第26話

手元の資料だけかと思ったら足元にも資料があるらしい。

そんなに溜まっていたのか。

お父様は何をしているのか。


「俺が公爵家の後継ぎでいいの?君はそれでいいの?」


「問題ないです。興味がありません。私の興味は全て本ですから」


「そっか」


「なぜここで仕事を?」


「屋敷の中だと集中できなくてね。母さんはあの通りだから。ここは静かでいい」


「エリックお兄様は愛玩奴隷をお持ちではないの?」


「エリックでいい。別に欲しいとは思わない。利益が出ないからね」


なるほど。

新たな発見だ。

商人にピッタリではないか。


「君もいないじゃないか。愛玩奴隷。どの令嬢も一人は持っているよ」


「嫌悪を感じます」


「シンディ様の教えだね」


「はい」


「世間では君のことを本狩り令嬢と呼んでいるようだね。とても似合ってるよ。素晴らしいネーミングセンスだね」


「狩ってません。借りてます。ちゃんと返しますから」


「世間はそう思ってないよ。君は、これから何をしたいのかな?」


「本を読みたいです。それしかありません」


「………………そっか。叶うといいね。邪魔したね。ゆっくりお読み」


エリックはたくさんの資料を抱えて屋敷の中に戻って行った。


「アメリア様。エリック様は馬鹿ではないようですね」


「そうみたい」


あの人なら大丈夫だろう。

利益か………………。

労働奴隷は使うはずだ。

出来るだけ多くの利益を作りたいはず。

だが、使い捨ての考え方ではないな。

奴隷という存在には抵抗感がないが。


「メアリ。私引きこもり生活してもいいみたい」


「そうですね。あの言い方だとそうなりますね。既に諦めているのでしょう。公爵様と違って切り捨てるのが早いです」


お父様も大変だ。

優秀な息子がいて。

反対に飲み込まれているではないか。

悪い人ではないんだけどなぁ。


「メアリ。紅茶が飲みたい」


「すぐにご用意いたします」


さっきは後悔してしまったが今はそうでもない。

ちょっと期待できるからなのか。

明日はロウさんのところに行こう。

報告に行かないとロウさんも気にしている頃だろう。

そんなことを考えながら紅茶をくるのを待った。


***


次の日。

古書店に行くと珍しくお客さんが一人いた。

どんな人が来たのだろうか。

でもここでお客さんの詮索は御法度。

闇市の人も来るところだから。


「おやおや。お嬢ちゃん。こっちにおいで」


「ロウさん。ごめんなさい。ちょっと遅れちゃった」


「いいや、問題ないよ」


いつもの席に座る。


「ちょうどいい時に来たねぇ。ルンさんや。お嬢ちゃんが来たよ」


ルン爺?

まさか、さっきのお客さんってルン爺?

奥から出てきたのはフードを深く被っているお客さんだ。

お客さんはゆっくりフードを取った。


「ルン爺!わぁ!久しぶりですね!」


「おぉ、そうじゃな。ここで会えるとは何かの縁だのぉ」


シワシワの顔で微笑むのを久しぶりに見た。


「ロニから聞いてはいたが元気そうだの。安心したわい。ハルは全く話をしないからの。全くあの奴は」


ハルはルン爺にはあまり話さないのか。

ロウさんには話すのに。


「それで?何か進展はあったのかな?」


ロウさんはウズウズしている様子だ。

よし、話してあげよう。

私は団長がしてくれたことと書状の話をした。

すると二人とも楽しそうに笑った。


「お嬢ちゃん。本当に最高なことをしてくれたね。本の知識をそこで使うのがいいねぇ。初夜の本を話題にするとはね」


「いやいや、大物になるわい。さすがシンディの娘だ。度胸があるのぉ」


傑作な書状だと思う。

いい知識を持ってるでしょう?

でも、これを団長が聞いたら絶対怒ると思う。

だから言わなかった。


「だが、いい方向に行くだろうね。そうか。今日で最後かねぇ」


ちょっと寂しそうに言ったロウさん。

多分、そうなるだろう。

本探しも今はしていない。

だから町に来るのも控えているし。


「アメリア。お前に言っておかなければいけないことがある。いいか?山賊の件になる。きっとハルなら知っているだろうがアイツがアメリアに話すとは思えないからのぉ」


急に真剣な顔になったルン爺に私も急に緊張感を感じてしまった。

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