第25話
サーカス団が去ってから1日後のこと。
顔を真っ青にしたお父様が私の部屋に来た。
どうやら書状に気づいたらしい。
「あ、あ、あ」
さっきから「あ」しか言わないのだ。
言いたいことがあるが考えられないらしい。
目はウルウルとさせて手は震えている。
かなりのショックだったのか今にも倒れそうだ。
いや、いっそのこと倒れてしまったらいいのに。
「お父様。落ち着いて下さい。何が言いたいのですか?まさか、降格でもされましたか?あぁ、それは残念ですね。でも大丈夫ですよ。お父様には立派な息子であるエリックお兄様がいらっしゃるので。助け合いましょう」
「そ、そんなことを言っている場合ではない!!」
なんだ。
話せるじゃないか。
「勝手に書状を出すなど!!お前は何をやっているのだ!!しかも、あの内容はなんだ!?」
「恋を応援する書状ですが?何か問題ありました?」
「お前は小説家にでもなりたいのか!?それともエッセイか!?陛下も王妃様唖然とした表情だった」
「そんなにびっくりするものでしたか?少々刺激が強すぎたかしら」
「初夜の内容をアドバイスする奴があるか!!!」
「失敗は許されません!28枚にも及ぶ私の作品です!素晴らしい内容ですよ。手を繋ぐところからキスをする流れまで丁寧に書かせていただきました」
「お前………………お前は!!」
「殿下は愛する人を見つけたのですよ!!」
「ーッツ!」
「お父様だって同じだったでしょう?」
「そ、それは………………」
「難しいのは分かります。ですが、お母様とお父様のようにはなりたくありません」
「アメリア。私だってお前を不幸にはしたくない。だがなこの婚約は「お父様!!!」
今までにない大きな声でお父様を呼んだ。
すると、びっくりしたのか口を閉ざしてしまった。
「私からは以上です。私は本を読むのに忙しいので。あぁ、エリックお兄様が教えて欲しいことがあるそうですよ。そちらを優先して下さいね。なんでも、農作物が猪に食べられてしまって作物の出荷量が減っているそうです。これでは赤字になってしまう、と」
「何!!早く言え!」
バタバタと部屋から出て行ったお父様にあっかんべーをする。
「本当に阿呆でございますね。公爵様は」
「メアリ。塩」
「はい」
しかし、陛下から返答がこない。
何かきてもいい頃だろうに。
「書状のことで考えてますか?」
「うん。なんだろうねぇ。あれだけ送ったのに」
「王族の婚約を破棄するためには手続きがいろいろありますからね。婚約する時もいろいろありましたよ」
「そうだっけ?」
「覚えてないのも分かります。ずっと本を読んでおりましたので。神官の目の前で堂々と」
全く覚えていない。
何か重要なことしたっけ?
「庭で本でも読もうかな」
本を持って庭に向かう。
お気に入りの庭のソファーで本を読むのは格別だ。
今日も天気がいいし読書に最適な天気だろう。
そんな気分で行ってみたらすぐに後悔した。
私のお気に入りのソファーにエリックがいたのだ。
しかも、何やら難しい顔をして何かの資料を読んでいる。
お父様はどうしたのだろうか。
周りにはお父様も侍女も愛玩奴隷もいない。
たった一人で座っている。
もうここには来れないのね。
は〜ぁ。
「座ったら?そんなところに立ってないで。ここは君の場所だろう?」
急に話しかけられてちょっとびっくりした。
実は直接会話をしたのは初めてだ。
「いいえ。部屋に戻りますわ」
「なぜ?遠慮しなくてもいいと思うけど。少し話さないか?」
資料から目を離しお父様に似たつり目が私を見ている。
「私とお話ししてもつまらないと思います」
「それは分からない。初めてだからね」
「………………」
ちょっと考え直さないといけないか。
お父様は馬鹿だけど息子は本当に優秀かもしれない。
私はゆっくり隣に座る。
「書庫の本は君が集めたのかな?」
「はい」
「どうやって?」
「お友達から譲ってもらったり自分で探したり」
「町に出て?」
「はい」
「そっか。町は危険が多い。優秀な侍女だね」
「お母様の侍女ですから」
「あぁ、シンディ様のか」
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