第23話

あの対面から1週間後。

屋敷はすっかり変わってしまった。

前は感じなかった侍女の駆け足と話し声が聞こえるようになった。

バルも忙しそうに屋敷内を動き回っている。

そして、私は庭のベンチに座って本を読んでいる。

しかもロウさんに頼んでいた本。

朝起きたら窓のところに置かれていた。

犯人は分かっている。

来たなら起こせばいいのに。

まぁ、見つかったからいいか。

今読んでいる本も滅んでしまった国の歴史書だ。

これもかなり古いものだ。

破れて読めないところもあるけど内容が分からないほどではない。

どうやらある騎士から始まるようだ。

傲慢で贅沢三昧な貴族と王族の所為で国民は苦しんでいた。

あまりの苦しさに死んでしまった者を食べてしまうくらい苦しい生活をしていたようだ。

その様子に我慢ができなくなったある騎士が反乱軍を作り王宮に攻め入った。

戦の準備などしていなかった王宮はあっさり占領され王族は皆殺しにされた。

騎士は新しい国王となり国のために様々な政策を行った。

だが、その国は騎士が亡くなると隣国の吸収されてしまったようだ。

国を落とすところと政策に関するところが気になる。

なぜ、こんなにもスムーズにいくのか。


「アメリア様。そろそろお時間ですよ」


「うん」


今日はサーカスの最終公演。

盛大な打ち上げをする日。

たくさんの本とたくさんの料理を先に送っているから身体だけで楽チン。

屋敷にあった本も整理できて嬉しい。

いつもの町娘スタイルでソロソロと屋敷から出ていく。

夕暮れなので家に帰る男性が目立つ。

家に帰れば妻が作った温かい食事が待っているだろう。

だが………………

チラッと横を見ると道端に冷たいパンを投げている人がいる。

そのパンは鳥の餌ではない。

それは労働奴隷の食事。

家の中に入れない奴隷は外で鎖に繋がれ道にばら撒かれたパンを食べるのだ。

昔、あまりに可哀想で食べ物をあげようとしたとき団長に怒られたことがあった。

そんなことをすれば奴隷を飼っている主人に殴られる、と。

実際、何も知らない旅人が奴隷に食べ物をあげたときその奴隷の飼い主が凄い剣幕で怒鳴っていた。

その旅人はその主人に殴られて気絶していた。

道端に捨てられ見た目のいい商人にどこかに連れて行かれてしまった。

思い溜息ばかりだ。

一人ではどうにもならない。

この状況をなんとかするためには大きな力が必要だ。

一人じゃどうにもならないんだ。

サーカスのテントの裏側に回るとまだ公演中だから人は少なかった。

よし、準備しちゃいましょう。

メアリに手伝ってもらいながら皿やコップをテーブルに並べる。

今回のメニューは肉がメイン。

しかも貴重な部位。

全て公爵家のお金で補っているからじゃんじゃん使った。

まぁ、このくらいなら気づかないだろう。

ドレスや宝石より安い。

夫人が屋敷に来てからたくさんの商人を見かけている。

かなりの量を買い漁っているようだ。

そして、極め付けはかなり容姿のいい愛玩奴隷まで。

男も女も買ったらしい。

男は夫人だろう。

女は息子用?

きっと凄く高かったはずだ。

ドレスが何着も買えるほどの。

最初からこの調子では困る。

お父様は気にしていないけど。


「「うわーっ!!凄い豪華!!」」


見事なハマり声は双子だ。


「まずは着替えてきてよ!衣装のままは駄目!」


「「えーっ!」」


「食べさせない」


「「分かったよ!」」


パタパタと走って小さなテントの中に入っていった。

双子がテントに入るのと同時にゾロゾロとショーを終えたみんなが帰ってきた。


「わーっ!凄いご馳走!お肉だ!」


「酒もこんなにあるぞ!」


「デザートもある!」


「これ貴重な肉じゃねぇか!」


「私、アップルパイ食べたーい」


嬉しそうに笑うみんなの顔を好きだ。

こんな事しかできないけれどみんなが嬉しいならそれでいい。


「いつもより豪華だね。準備大変だったでしょ?」


私の頭を撫でるのはいつの間にか後ろにいた団長だ。

今日も上半身裸。

脇腹は治っているみたいだ。


「これくらいしかできないから。たくさんお肉持ってきたよ。お酒もバッチリ。あと本も」


「そう。家の中は整理したのかな?」


「うん」


「そっか。じゃぁ、いつでも出られるね」


「うん」


「よし!お前ら!派手に食べろ!」


【はーーーい!!!】


またみんなに会えるだろうか。

またこんな感じに楽しめるだろうか。

これが最後になる。

そんな感じがする。


「アメリア様!一緒に食べましょう!」


いつの間にかユエさんがいた。


「うん」


みんなで囲む食卓はとても賑やかで楽しい。

大人はみんなお酒を飲みどんちゃん騒ぎ。

双子も大好きな唐揚げを取り合いしていた。

まだあるから喧嘩しないでほしい。

その騒ぎは夜遅くまで続いた。

みんなが潰れてしまったあと団長のテントに向かった。

メアリはテントに入らず外で待機。


「団長?」


「ん?」


「まだ飲んでるの?」


ウイスキーのボトルごと飲んでいるのに全然酔わないのか。

強すぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る