闇市

第20話

公演が終わった後のテントの裏は熱気に溢れていた。

みんなやり切ったと言わんばかりの騒ぎ。

王宮のサーカス公演から2日後のこと団長に呼ばれてここに来たのだが、ちょっと来る時間を間違えてしまったらしい。

団長がいるであろうテントに入ると案の定ソファーに倒れ込んでいる。

まだ上半身裸で汗だく姿だ。


「団長?」


「あぁ、いらっしゃい。また本と差し入れありがとな。子供たちも嬉しそうだ」


「それは良かったけど。大丈夫?疲れてる?」


「まぁ、ちょっといろいろあって。地図、返すよ。ありがとう」


「うん」


テーブルに乗っている本を持つ。

この本の処分をしなければならないか。

闇市に売るわけにはいかないから焼却処分ね。


「よいしょっ!」


団長は怠そうに起き上がりソファーに座った。

だが、服を着るつもりはないらしい。

私として是非着て欲しいところなのだが。


「団長?」


「ん?」


「脇腹どうかしたの?」


団長の脇腹が真っ赤に腫れているのが分かる。

団長が怪我をするのは珍しい。

元闇市の人がサーカスの練習で怪我?


「問題ない。すぐ治る。痛みもそんなに感じないからな」


「そう。でも真っ赤だよ」


「心配するな。平気だから。そんなことより王宮の話をする」


「うん」


団長は隣に座れとポンポンと座面を叩く。

私はそれに応えて隣に座る。

すると団長はクシャクシャと私の頭を撫でた。


「本当に大きくなった。出会った頃はまだハイハイ出来ない赤ん坊だったのに。小さい頃のお前を知っているからか可愛くて。可愛いお前が馬鹿にされるのは許せない。王宮の中のアレは何?まるで娼館だ。愛玩奴隷の数もそうだが人の目が気にならないらしい。公演中もイチャイチャと」


凄く怒っているのが分かる。

団長の目が本気だ。

闇市から離れて結構な年数が経っているのに全く衰えていないらしい。

その眼力だけで殺してしまいそう。


「丸裸の愛玩奴隷でもいたの?」


「それはいなかった。ただ、上半身裸の愛玩奴隷はいた。もちろん男の。顔が赤かったから何か飲まされているかも。少し身体も震えていたかな。じゃらじゃらの装飾品を付けられていたかなぁ。あぁ、王妃の近いにいたかも」


「完全に王妃の愛玩奴隷でしょ」


「アレもそろそろ死ぬ」


「………………」


「王妃の近くに殿下と例の令嬢がいた。参加式にして二人にやってもらったよ。結果は成功かな。情熱的なキスをしていた。神官も王妃も陛下もそれを見ている。逃げられることは出来ないだろう。これも渡しておくよ。記録画」


なるほど。

まぁ、成功は成功だ。

記録画もあれば十分だろう。

あとは私から陛下に連絡をすれば。


「しっかし、あの令嬢。毒女みたいな令嬢だ。殿下のことウットリした目でずっと見ていたよ。気持ち悪い」


「団長は慣れてるはずなのに?」


「慣れてても好きにはなられない」


確かに慣れるかもしれないけど好きにはなりなくない。


「束縛する女は凄く面倒だから。キスをしている時もあの令嬢は殿下の背中に手を回して離したくないって感じだったよ」


「見た目と違って肉食だったか。小動物みたいなのにね。話したことないからよく分からないけど」


「………………」


あれ?

なんだろう。

団長が呆れている顔をしている。

しかも離れて立っているメアリも同じような顔をしている。

まさか、話したことあった?

記憶にないけど。

えっ?

いつ?


「アメリア。お前は本当に可愛いやつだね」


ポンポンと私の頭を軽く叩く団長は小さい子を慰めているようだった。

いつまでも子供扱いだ。

もう子供じゃないのに。


「あぁ、そうだ。ルン爺に会ったよ。元気そうだった。お前のこと聞かれたから元気にしていると伝えたけど」


「闇市に行ってないから会ってないの。ルン爺もお年だからこっちになかなか来ないし。手紙も出せないでしょ?」


「そっか。行ってないのか。もう必要ないからね。行かなくていい。あそこも相変わらずだったよ」


「久しぶりにみんなに会ったんでしょ?」


「何人か死んでたけどね。厳しい組織だから」


そっか。

死んじゃったか。

仕事で失敗して殴り殺されてしまった者もいれば闇市同士で殺し合いをする者もいるから。

よく死んじゃう。

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