第19話
ーある男爵の屋敷にてー
その男の髪は白く艶があり光の当たり方でキラキラと輝いているようにも見えた。
肌も色白く太陽の光を浴びていないのか日焼けなど全くしていないのだ。
顔の作りはとても綺麗でこの世のものとは思えない美しさ。
そして、男の瞳は真っ赤で吸い込まれてしまいそうなゾクゾクしたものを感じる。
その男は上半身の服を脱ぎ捨てベッドの上に寝ている男爵の腹の上に座っていた。
細身の身体だが程よい筋肉があり鍛えている様子だ。
その身体には切り傷や刺し傷などがあり痛々しい。
「あぁ、お前は本当に美しいなぁ。闇市にいるのが勿体ない」
男爵はそう言ってゆっくり男の腰を撫で回す。
「男爵。あなたも美しいですよ。唆られる。剣で鍛えたその身体。撫で回したくなります」
「嬉しいことを言うな。我慢ができなくなるだろう。すぐにでも押し倒したくなる」
「我慢なんてしなくていいですよ。僕のことが欲しいでしょう?ほーら、もうこんなに熱い」
男は男爵の身体を撫で回し男爵の唇をペロッと舐める。
それが合図だと言わんばかりに男爵は男を自分の上から引き摺り下ろして馬乗りになった。
男爵は男の身体を撫で回し唇に何度もキスをする。
そして、手は下へ下へと降りていきズボンを脱がせようとした瞬間に力が抜けて倒れ込んだ。
男爵は自分に何が起こったのか分からない。
「だんしゃくーぅ。ごめんねぇ。お得意さんだったけど男爵のこと気に入った女がいてさぁ。愛玩奴隷になってよ。大丈夫。この僕が調教してあげるからね。その女、結構いいマニアみたいでね。男同士の交尾に興奮するらしくてさぁ。ちょうどいいよね。男爵も美しい男好きでしょ?男爵ならきっと素晴らしい愛玩奴隷になると思うなぁ。だからね?そろそろ堕落しようか」
男は男爵の顔を覗き込む。
そして頬を優しく撫で回した。
「やめ、やめろ」
男爵は男の赤い瞳が妖しく光ることに恐怖を覚え震え上がる。
「なぁに?聞こえないなぁ」
「やめ、やめてくれ!」
力を入れているはずが全く動いてくれない身体にどうしていいのか分からない。
男は自分の上に倒れている男爵の手足を縛り上げるとニタリと笑ってゆっくり近づいた。
今日の夜はまだこれからだ。
いつの間にか屋敷の中は静かで男爵と男以外の気配は感じない。
男爵は叫んだがその声は虚しく屋敷の中に響くだけだ。
誰も助けに来ない。
いるはずの奴隷も侍女も妻も来ない。
男爵は知らないのだ。
もうみんな殺されていることを。
綺麗な廊下が血だらけになり階段は真っ赤な血が流れていることも。
野犬がその血を嗅ぎつけ死んだ人間の肉を食いちぎっていることも。
【あ”ぁぁぁぁぁぁああ】
絶望の声なのかそれとも快楽の声なのか。
そしてその声に混じって楽しそうに笑う声も聞こえる。
ゆっくりゆっくり獲物を締め付け絶対に離さない。
まるで蛇だ。
男はある程度の調教が終わると男爵を軽々持ち上げ屋敷から出て行った。
男が向かった先は森の中にある平家で家だ。
家の中には檻がいくつか置かれていた。
その檻の中には商品になる愛玩奴隷が入れられていた。
どれも美しく妖艶さを醸し出している。
男はビクンビクンと痙攣している男爵を空いている檻に入れる。
「さて、あと何回やればいいかなぁ。早くしないと終わらないよぉ。俺も暇じゃないからさぁ。早く快楽を楽しむようになってね」
男はそう言ってはいるがどこか楽しんでいる。
ニタリと男が笑うと檻に入れられた他の愛玩奴隷たちが震え出す。
そろそろ他の愛玩奴隷も相手しなければならない。
男も女も関係ない。
快楽を与えて堕落させるのが仕事だ。
男は他の愛玩奴隷にゆっくり手を伸ばした。
狭い平家に絶叫が響き渡る。
ここは奥深くの森の中。
誰もその声を聞くものはいない。
調教は朝まで続いた
調教が終わると男は家の目の前にある椅子に座る。
そして少し遠くの方を眺めた。
「忙しいようだな」
男は声が聞こえた方向を見るとある男が歩いてきているのが分かった。
黒い髪と綺麗な顔。
気配を消しながら歩いているのかとても静かだ。
「君も忙しいみたいだねぇ。呼ばれたそうじゃん。王族も貴族も暇だねぇ」
「そうだな」
「で?何さ?俺に用事?もう忙しいのにぃ。馬鹿王を騙すのに苦労してるんだよぉ」
「いつ頃出る予定だ?」
「うーん。誕生会が終わったらすぐに破棄されるはず。そしたら出国するけど。なんで?」
「騎士団が動きそうだ」
「知ってるよぉ。だからこんなに忙しいのぉ。分かるでしょう?」
「まとめて調教出来るのはお前くらいだな。早く終わらせろ。待ってるぞ」
「焦らすのも楽しいからなぁ」
「やめろ。意地悪するなよ」
「………………それだけのために来たのぉ?」
「お前にこんなこと言いたくないが………………」
「………………」
「頼むぞ」
男は黙って目の前にいる黒髪の男を見つめていた。
余計なことを言うなとでも言っているつもりなのか。
男の赤い瞳はまた妖しく光った。
ーある男爵の屋敷にて endー
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