第17話

「アメリア様。お帰りなさいませ。さぁ、行きましょう」


メアリはニコッと微笑む。

ヨロヨロと歩くのをやめてシャキッと姿勢を正す。


「疲れた。さぁ!ここからは私の楽しい時間だ!」


急いで書庫がある方向に向かって歩く。


「お茶会はどうでした?」


「あー、いつもと変わらない。あまり周りは見てないけど」


「殿下の姿は?」


「それが、聞いてよ。王妃様の正面にいたの!まさかそこにいたとは。気配なかったからさ」


「アメリア様。殿下の気配を感じないのはアメリア様くらいです。遠くでも見つけられるほどの存在感ですけど」


あの容姿だったらそうでしょうね。

でも分からなかったのだ。

キラキラオーラは私には効果がない。

長い廊下を歩くこと10分。

やっと第三書庫に到着した。


「アメリア嬢。許可書はございますか?許可書がなければ入れませんよ」


書庫の入り口に立っている見張り役がジロリと私を見る。


「持ってます」


許可書を入り口にいる人に見せて中に入ると本の匂いが私を昂らせる。

天井の高さまで積まれた本を見ると更に高まる。


「あぁ、堪らない。この匂い!はぁはぁ」


「アメリア様。お静かに」


「そ、そうね。書庫では静かにしないと」


書庫の中は人の気配がなく静かだ。

司書はどこかに出かけてしまったのかいないらしい。

好都合だ。

ロウさんから聞いた7番通路の奥の部屋に向かう。

周りを見渡し誰もいないことを確認しながら部屋の中に入る。

部屋の中はたくさんの本でいっぱいだ。


「さて、どこでしょうね」


「怪しいのはこの本棚じゃない?」


一つだけ黒い本棚がある。

周りの本棚より年季が入っているようだ。


「アメリア様。少々よろしいでしょうか?」


「いいけど。何かあるの?」


その場から離れるとメアリが本棚と本棚の隙間に片手を当てる。


「風を感じますね」


「ん?空洞?」


メアリは本棚を押したり引いたりしてみたが全く動かない。

本棚にある本を1冊ずつ引いてみるが違うみたいだ。

手当たり次第に周りを触ってみたが全く動かない。

単純に横に押すだけとか?

………………。


「メアリ。横に押してみて」


「はい」


メアリは両手で横に押してみる。

するとガタンッと音がしてゆっくり本棚が動いた。

本棚があった場所の奥には赤い本棚が隠されていた。

しかも、小さな部屋のようにもなっている。


「アメリア様。お急ぎください」


「うん」


赤い本棚には10冊以上の本が置かれていた。

どれも埃まみれで長く誰にも読まれていない様子。

埃を取り除き一冊一冊丁寧の表題を読む。

うーん。

確かにどれも貴重なものね。


「どうですか?」


「そうね………………ん?」


「アメリア様?」


一冊の本に目が止まる。

これは、歴史書?

この国のものじゃない。


「メアリ。2時間ちょうだい」


「分かりました。見張りをしておりますので」


メアリは一旦部屋から出た。

私は近くにある椅子に座り表紙を捲る。

どうやら聖女に関する歴史書らしい。

【ある祈り子が1週間もの長い間神に祈りを捧げていた。

だが、いくら祈っても全く雨は降らず大地は枯れ果て砂漠地帯になってしまった。

国民はそれを祈り子の所為にして神の怒りを抑えるために生贄として神に捧げたそうだ。

神の怒りは収まるどころかもっと酷くなり砂漠化がどんどん進むばかり。

次から次へと生贄を捧げたが全く効果がない。

そこにある旅人が訪れた。

その旅人は生贄を非難しやめるように訴えた。

だが、国民はそれを無視して生贄を捧げるのを続けた。

ついに大地震が起こり大地が震えアリ地獄のように砂に呑み込まれてしまった。

旅人はなんとか避難することができたが辺りを見回すと何も残っていなかった。

最初から何もなかったように本当に何もなくなっていた。

旅人は怖くなりその場を急いで離れたそうだ。

だがその時にまた大きな地震が起こり大地が大きく震えた。

旅人はバランスを崩してその場に倒れてしまい気を失ってしまった。

旅人は少しすると目を覚ましゆっくり立ち上がる。

そして自分の目の前に広がる光景に驚きを隠せなかった。

先ほどまで砂漠地帯にいたというのに緑豊かな場所に立っていたのだ。

そして大きな湖が目の前に広がりそこには水面に立つ一人の女性がいたそうだ。

それが聖女誕生の始まり】

この本に書かれている聖女は国を作り女王になったそうだ。

国民のために画期的な政策を行いあっという間に栄えた国になった。

聖女は不思議なことに老いることがなく美しいまま死んでいったそうだ。

聖女が作った国は聖女が亡くなると徐々に衰退していき隣国に吸収されてしまったそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る