第12話

「アメ「ストップ!ここでは言わないで。あまりよろしくないから」


私の名前を言おうとしたのを慌てて止めた。

まだこの場所で名前は使えない。

誰が聞いているのか分からないもの。


「あっ、ごめんなさい。団長のところまで案内しますよ」


「ありがとう。コルさん」


「俺の名前覚えててくれてたんですね!?嬉しいです」


「当たり前よ。疲れているところごめんなさい」


「いいえ!みんな会いたがっていましたから」


柵を外して中に引き入れてくれた。

裏では前回会ったことのある団員が水浴びをしていたり休んでいた。

まずは団長にご挨拶ね。

一番奥のテントに案内され中に入るとベッドの上で死んだように眠っている団長を発見した。

やり切った感が凄いわ。

艶がある黒い髪は汗でびっしょりだ。

前髪を掻き上げているため綺麗な顔をよく見える。

前は髪の毛長かったのに短く切ったのね。

お疲れのところ悪いけど起きてもらおう。


「団長。お疲れ様。悪いけど起きて」


「………………あぁ、久しぶりだな。客席にいたの気づいたよ。いやぁ、本当に地味に庶民に溶け込んでいる。誰も令嬢だなんて思わないな。なんでだろうねぇ。その容姿でなんで溶け込めるのか不思議だよ」


ベッドから降りる気にはならないようだ。

体勢が全く変わらない。


「変装は完璧。お母様の教えは素晴らしいでしょう」


「本当に凄いよ。あと、ここでなら名前呼びで大丈夫だから。テントの表側は危ないけど裏は警備しているから」


「それは安心ね」


「ユエから聞いたよ。今年中だって?そっかぁ。アメリアがいなくなるならこの国とも最後だ。この国はあいつらにとっていい国ではないからな。あーっ、王宮に呼ばれるとか最悪だ」


「ショーを短くするとかは?」


「そのつもり。王宮に連れていく人数も少なくする」


団長はゆっくりベッドから起き上がりやっと上着を着た。


「差し入れありがとう。助かる。食費が一番悩むから。これだけ人数が増えると食費もかかるから」


「それは良かった。最後は素晴らしい打ち上げパーティーを準備するからね。楽しんでください」


「あぁ、ありがたい」


「忠告よ。最近、奴隷商人が活発なの。サーカス団の子供たちを狙っているかも。警戒を強めたほうがいい」


「こっちに来たときハルにも言われた。気をつけろって。あいつは相変わらずだね。用件だけ言ってすぐに消えた。友人との会話を楽しむこともしない」


「そう。ハルがそんなことを。尚更ね」


「あぁ、いつもより人数を増やして警備しているから」


「元闇市の警備なんて興味深い。ある意味贅沢」


「楽しまないの。危ないってこと理解してる?全くこの子は。小さい時からそうなんだから」


「分かってますぅ。今夜はここに泊まってもいい?」


「いいよ。ユエのテントに泊まるつもりでしょ?家は大丈夫なの?」


「問題なーい。家は全然困らないもん」


「公爵令嬢がこんなテントに泊まるなんてね。普通はあり得ない」


「普通など知りません!」


「はいはい。さて、邪魔をされる前に話しておきたいことがあるんだ」

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