第10話

雲一つない空には鳥が元気に飛び交っている。

日差しも強くなく心地よい風も感じる。

あぁ、なんて素晴らしい日。

大きなパラソルの下でふかふかなソファーに座りながらの読書は格別だ。

時間が止まってほしい。

この素晴らしい時間をずっと過ごしていたい。

ロウさんの知人さんから頂いた本は実に素晴らしい本だった。

かなり前の事件だけど詳細がしっかり書かれていて満足だ。

何回も何回も読むと内容がスルッと入ってくる。

格差社会をどうにかしようと国民が立ち上がる事件や農産物の値上げを反対する事件などどこにでもあるような事件や珍しい事件なども書かれていて興味深い。

その中に本に関する事件も。

本を求めて二つの民族が争った事件。

その事件はとても心が高ぶった。

物語じゃない。

本当に存在する本を争ったのだ。

きっとあると思う。


「アメリア様。お客様です」


「お客様?」


「ユエ様ですよ」


「戻って来たのね!」


もう2年も前になるかな?

そっか、もうその時期になるのか。

ユエさんなら大歓迎。

メアリにお願いしてここまで通してもらった。


「アメリア様!ご無沙汰しております!お元気そうですねぇ」


「ユエさんも元気そうで安心した。さぁ、こっちに座って」


ユエさんは女性なのにとても髪が短く服装も男装。

男装のほうが動きやすいという。

確かに何かあった時には不向きだ。


「いつこの国に?」


「昨日の夜に到着しました!今度は新しい技で盛り上げますよ!」


「それは楽しみ。いつ公演に?」


「4日後に。1日3回も公演しますよ!サーカスも日々進化してますからね。びっくりだらけです!」


「4日後ね?必ず行くから。団長は元気なの?」


「はい!アメリア様に会いたいって言ってました。忙しく来れなくて。私が代わりに」


「準備が先だからしょうがない。私が会いに行くから大丈夫。みんなに会いたいもの」


「喜びます!双子も会いたいって言ってました!」


「本当に元気そうで良かった」


「アメリア様?」


「ユエさんにもみんなにも伝えなければならないことがあるの」


「伝えなければならないことですか?それはどのようなことでしょうか?」


「私、今年中に国を出るから」


準備は着々と進んでいる。

婚約破棄もこのままスムーズに進むと思う。

このエヴァンズ家には跡取りもいるから問題もない。

私がいなくなってもどうにかしてくれるだろう。


「そうですか。今年中に」


「えぇ、だから盛大に打ち上げをするから。前よりもっと賑やかに!みんなの話をたくさん聞きたい」


「私もたくさんお話したいことがあります。国々を回るサーカスをしているとたくさんの情報が入ってきますからね。アメリア様が知りたいことも!」


「それは楽しみね」


「………………そうですか。やっと国を出られるのですね。本当に良かった。本当に」


ユエさんは優しい笑みを浮かべた。


「差し入れは何がいい?やっぱりアップルパイ?ワッフルも好きだったよね?アイスクリーム?最近、シュークリームも流行ってるらしいけど。もちろん、主食も準備するから」


「そんなにたくさん食べられませんよ!」


「みんな食べ盛りでしょう?大丈夫」


「まぁ、そうですけど。あっ!今回は王宮でも行う予定なんです。招待されちゃいました」


「王宮で?………………怪しいわね。なぜ?」


「私も怪しいなって思ったんで調べてみたらびっくり!どっかの令嬢が見たいと騒いで王宮に招待することになったらしいです。もうお分かりでは?あの令嬢ですよ。王宮にいるのが当たり前みたいになってる人ですよ。小動物みたいな」


「あぁ、殿下の恋人さんね。ごめんなさい。嫌いなところに行くなんて。自分たちが何をしたのか分かってないからそんなことができるのね。ショーの中でナイフを飛ばしちゃったら?間違って頭に刺しちゃえ」


「いやいや、処罰されちゃいますよ!急に過激なこと言っちゃうんですから。でも、やりたい気持ちはあります。あいつらは最低ですからね」


もう王族の悪口だらけ。

本を盗んだ犯人にされかかったことも話した。

ユエさんは笑っていたけど。

サーカスの準備で忙しいのか少しだけおしゃべりするとユエさんは帰ってしまった。

少しだけの会話だったけどとても楽しい気分だわ。

4日後の公演とても楽しみね。

差し入れたくさん準備しないと!

そうと決まれば早速行動ね!

お店に電話して届けてもらわないと!

早く4日後にならないかな。

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