第6話

裏口から中に入り自分の部屋に向かう。

屋敷の一番奥に自室があり周りは書庫に囲まれているから幸せだ。

公爵令嬢としての部屋ではないけれど私は満足している。

お父様はかなり怒ってしまったが気にしない。

まぁ、愛人の子供に部屋を譲ることになるし。

片付けることがなくていいじゃない。


「アメリア様!やっとお帰りになりましたか!」


パタパタと走ってくるのは執事長のバルだった。


「どうかしたの?」


「どうかしたの?ではないです!アメリア様にプレゼントが届いておりますよ!もっと早く帰って来て下さい。毎回、同じことを言いますが!アメリア様は町娘ではないのですよ!」


「プレゼント?」


朝のお届け物ね?

どこの誰から?


「どこの貴族から?困った人達ね。喧嘩でも売るしかないかな」


「貴族ですがアメリア様が大好きな方ですよ。シンディ様からたくさんのお届け物です」


「お母様から!?どこに置いてるの?」


「もちろん、アメリア様のお部屋ですよ。あっ!走らないで下さい!」


長い廊下をバタバタと音を立てながら走る。

自室の前に着くとドアを勢いよく開けた。

部屋の中にはたくさんのプレゼントが積み重なっている。

送り状は確かにお母様の字だ。


「アメリア様。まずはお着替えしましょう。なくなりませんよ。全て、アメリア様の物ですから」


メアリは私のすぐ隣に立っていた。


「でも、今すぐに開けたい」


「少しだけ我慢しましょう。さぁ、こちらのドレスに着替えて下さい」


渡されたのはアイボリーのドレス。

フリルなどの飾りは一切ない。

シンプルで実用性メインのドレスだ。

しょうがなく着替えを先に済ませてからプレゼントと向かい合う。


「アメリア様」


「何?」


「紛れておりました」


「何が?」


「殿下からのプレゼント」


殿下から?

なぜ殿下からプレゼントが届くの?

呪いとはされてないよね?


「大きめの箱ですけど」


「そんなの後回し。先にお母様の。どれから先にみようかな?う~ん」


「小さい箱からにしましょうか?」


「まぁ、メインは大きい箱っぽいし」


グレーの箱に手を伸ばす。

可愛らしいリボンを解き、蓋を開けると小さなケースが出てきた。


「これは本のしおり!綺麗な色」


ケースを開けると水色のしおりが入っていた。

キラキラと輝いており花柄の模様が細かくデザインされている。


「アメリア様とシンディ様の髪色と同じですね。とても綺麗な水色です」


「本当に綺麗」


太陽の光を浴びればもっと輝く。

次の箱にはブックカバーが入っていた。

お母様の手作りで木々の刺繍がされていた。


「凝ってますね。刺繍を始めたのでしょうか?」


「細かい。きっと何度も指を刺したと思う。こんなに細かい刺繍だから」


次の箱は腕輪。

説明書には虫よけになる腕輪のようだ。

この国にはないものだ。

技術が発展している国にいるお母様だから手に入れられるものだ。

次の箱は靴。

裏は分厚くて丈夫そう。

そして軽い。

これもこの国にはないものだ。


「旅に便利な物ですね。靴は大事ですよ。足を痛めると大変ですからね」


「次の箱には何が入っているのかな?あと2個よね」


「同時に開けちゃいますか?。どちらも同じような大きさですし」


「そうね!」


メアリにも手伝ってもらって同時に開ける。

すると上質な生地で作られたドレスが入っていた。

明るい黄色のドレスはキラキラと輝いている。

メアリの箱には装飾品。

ダイヤモンドのネックレスとダイヤモンドのピアス。

そして少しヒールが高い靴。

シルクの素材で出来ている手袋。

お母様からドレスや宝石などのプレゼントは初めてのことだ。


「アメリア様。これは成人のお祝いですね。早いですが。きっと、今しかないと思ったのでしょう。これから旅に出てしまうのですから渡すことは難しいでしょう。このドレスを着て参加なさいますか?」


「…………………そうね。逃してしまったらいつ着ることができるのか分からないし。私が落ち着くまではメアリが持っていてくれない?」


「はい。大切に保管させていただきます」


誕生会に着るのは嫌だけどそれを逃したらいつ着れるか分からないし。

成人の儀はまだ先だけどそれまでに落ち着くことが出来るのか分からないし。

メアリに頼むしかないか。


「お母様にお手紙を出さないと」


「はい。とてもお喜びになられます」


どんな手紙にしようか。

お礼の手紙だけでは物足りない。

もう頭の中はお母様に手紙を出すことでいっぱいになっていた。

だからなのだろうか。

殿下のプレゼントのことなんかすっかり忘れてしまった。

それは一度も開けることなくお母様のプレゼントの下に埋もれてしまったのだった。

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