第5話

前より減ったが未だに贈り物が届く。

どうして分からない?

社交界ではもう噂になっているのに。

勝ち目があるとでも思っているの?

困った人達だ。

私に媚びてもしょうがないのに。


「やはり安いですね」


激安特価のお店に着くとメアリは安い服を探し始めた。

安くても出来るだけいい服をと必死の様子。

こういうものは早い者勝ちだものね。

汚れ難いのと撥水加工をしているものがいいけど。


「これもよいですね。丈夫です。旅は丈夫な生地でないと長持ちしませんよ」


「色は?ベージュはある?」


「ありますよ。サイズも。グレーもよろしいかと」


「そうね。グレーもいいかも」


「グレーにしますか?」


「うん」


「ではこちらの服は何色にしますか?」


「濃いブルーはある?」


「はい。羽織もいいですね。雨を通さない生地です」


メアリの買い物はとても上手だと思う。

安くて質がいいものを誰よりも先に見つける。


「このくらいでよろしいかと」


メアリの右手には紙袋が2つ。

絶対に必要な羽織とローブも買えたし満足だ。


「では、アップルパイのお店に行きましょう。そろそろ時間ですし」


「お店で食べる時間ある?なかったら持ち帰りで食べるしかないか。紅茶は諦めるしかないか。あそこの紅茶とアップルパイの組み合わせ好きだけど」


「今の時間だとギリギリですね。並んでいるようですとアウトです」


アップルパイのお店に着くとやはり並んでいた。

少しなんとかなるかもって思っていたけど。

これはダメだ。


「持ち帰り決定ね」


「はい。持ち帰りも並んでおりますけど。何やら……………目立っている者もおりますね」


「どっかの貴族の遣い?」


列に並んでいるお客さんの中に質がいい服を着た者がいた。

全く隠していないのね。


「…………………胸元にあるバッジは伯爵の紋章ですね。バッジがあるということはそれなりにいい使用人です」


「敵?味方?」


「あまり仲良くはありませんね。夜会でも挨拶をする程度です。どの派閥にも属してません」


「そう。一応、知り合いなのね。まぁ、こちらに気づくこともないでしょ」


「はい。その心配はないかと」


「庶民に溶け込んでいるのって凄いよねぇ。早く順番こないかなぁ」


「もうしばらくお待ちください」


あと10人ほど。

10分くらいはかかるかな?っと思っているときにカランコロンとベルの音が鳴った。


『申し訳ございません!本日のアップルパイは終了致しました!その他のパイはまだございます』


えっ?

終了?

ちょっと待って。

売り切れって?

嘘でしょ?

このお店はそんな簡単に売り切れることなんてない!

大量買いしない限りは大丈夫なのに!


「どうやら、あの伯爵の使用人でしょう。貴族は限度というものを知りません」


「馬鹿貴族が。みんなの分も考えて買ってよ。大馬鹿が。大量に買うなら予約しろ」


「どうします?」


「もう完売でしょ?並ぶ意味がない。アップルパイの気分だったのに」


「そうですか。では、帰りましょうか。次のお楽しみにしましょう」


「…………………食べたかった」


「次がありますよ」


楽しみだったのに。

列から離れて屋敷がある方向に歩き出す。

その途中でも奴隷の姿が多く酷い扱い方をされていた。

鎖に繋がれやせ細った姿を見るのは辛い。


「今日は奴隷の姿がいつもより多いね」


「今日は奴隷市場の特売日ですからね。仕入れてきた奴隷なのでしょう。どれもやせ細っておりますね。これから辛い労働が始まります」


「あれなら3日も持たないで死んでしまうかも」


「あの状況だとそうでしょう。これが現実です。愛玩奴隷もいつもより安く買えるそうです。夫人達が騒いでおりましたので」


「男性の愛玩奴隷を?自分の欲求を満たしたいために買うなんて。不幸せ」


「それがこの国の在り方ですから。奴隷の数は権力の強さでもありますから。お金がないと奴隷は買えません」


「違うことに使えばいいのに。だから、この国は諸国から嫌われているのに。それが分からないならもう終わりね」


「この国では普通ですから」


屋敷に到着すると裏手に回る。

正面から入ると怒られちゃうもの。

庶民の服を着たまま正面から入るなっって。

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