第4話
ロウさんが動いてしまったら大変なことになりそうだ。
厄介な人達がたくさん動くことになりそうだから。
「慎重に動かないと修道院行きになっちゃいますので」
「それは大変だ。そんなことになったらなかなか逃げられないねぇ」
「はい。やっとここまで乗り越えてきましたので。失敗など考えたくもない」
「シンディちゃんもずっと待っているからねぇ。今でも手紙が来るんだけどね。娘のことが心配でしょうがないみたいだよ。応援しているようだがね」
「お母様ったら。みんなに手紙を出しているのですね。この間も薬師のアルデさんから聞いたばかりです!」
「シンディちゃんはちょっと変わった過保護だからねぇ。それで?今度はいつ頃王宮に行くのかな?今度、誕生会があったよね?」
「よくご存じで」
「今回の誕生会は楽しくなりそうだ。どんな騒ぎになるのかねぇ。あの伯爵令嬢にドレスを送るらしいじゃないか。面白いねぇ。一緒に生地を選びにきたそうだよ。一番の上質な生地で作って欲しいと依頼したそうじゃないか」
「本当によくご存じですね。いったい、どこからそのような情報を?ハルですか?」
「いいや、教えてくれる友達がいてね。引退しているんだがね。もう趣味のようになっちゃって」
「いい趣味してますね」
「そうだろう。趣味があるのはいいことだよ。さて、本の話をしようかね。これが望んでいた本だよ」
目の前に出されたのは白い表紙に一文字だけのタイトルが書かれた本だ。
ゆっくり手を伸ばし優しく本を撫でる。
「この本は?」
「依頼通りの本だよ。隣国で起きた事件が書かれているよ。いやぁ、たまたま知人が持っていてね」
その知人はとても本を大切にしている方ね。
破れがないし変色もない。
「おいくら?」
「知人からの伝言だよ。あなたならその本を差し上げてもいい、と」
「いいのですか?貴重な本なのに。何かお礼だけでも」
「必要ないよ。彼は何も要らないと言っていたからね。タダより安いものはないよ。これからお金を使うだろう?節約しなさい」
「ありがとうございます。大切に読ませて頂きます」
「うん。いい知らせを待っているよ」
「私が知らせる前に知ってしまうのに?」
「直接聞きたいのだよ。他人から聞くより本人から聞くと安心できる」
私も早く安心したいところだ。
まだ、少しだけ時間はかかりそうだが。
「あぁ、それと王宮の書庫だけど。第三書庫に入れるかい?」
「第三書庫ですか?手続きをすれば入室は可能ですけど」
「だったら、7番目の通路の奥にある部屋を知っているかな?」
「はい。そこにも本が保管されてますね」
「ではその部屋の隠し棚を知っているかい?知人から聞いた話だが、その部屋には隠し棚があってその棚にも本が保管されているらしい。どれも貴重な本ばかり。リストに載っていない本だ。知人は元王宮の書庫管理者だったから間違いないと思う。どうだい?」
「とても面白そうですね。早速、手続きをします」
「今しかできないことを楽しみなさい。旅では本を読む暇などないからね」
ロウさんはクスクスと笑う。
1冊だけ本を持っていくつもりだけど。
きっと、ロウさんは分かっている。
しょうがないじゃない。
本が近くにないと落ち着かないの。
「さて、そろそろ次かな?ここだけではないのだろう?」
「えぇ、少々寄り道をしながら行こうかと」
「そうか。いい本が見つかるといいね」
ロウさんの古書店から出ると近くの古書店に向かった。
そこにも気になる本がよく出る。
「隠し棚の件ですが気になりますね」
「どこにそんなカラクリあるのか」
「手あたり次第に壁を押してみますか?」
「本棚を押してみたらクルッて出てきたり?」
「…………………ありえますね」
「リストから外されている本ですって。楽しみ。誕生会は決まりだね」
「はい。経路を探しておきます」
「お願いね」
次の古書店では2冊購入。
あとは服とアップルパイ。
激安特価のお店とアップルパイのお店は屋敷に帰る通りにあるし。
予定通りね。
「そういえば。朝、荷物が届いてなかった?」
「執事長が受け取った荷物ですね?全部で6個でした。送り主は見ておりませんが」
「お父様の?」
「あとで確認いたします」
「媚の品なら送り返して」
「承知いたしました」
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