第56話

「日本から離れる気はないので」


「あらぁ、残念。まぁ、手続きも大変だものね。気が変わったら連絡してね。すぐに採用してあげるから」


いや、会ってまだ間もないですけど。

そんなに簡単に信用しちゃいけないと思うけど。

つーか、駿君は何を話していたの?

なんでこんなにウェルカムなの?


「疲れただろうし部屋まで案内しましょうか。夕食の時間になるまでゆっくりくつろいでね。ロイ!23番をお客様部屋に案内して。このくらいやりないさい。ずっと、部屋に籠ってないで。ニートにでもなるつもり?」


「いや、ならないから。別に籠ってないし。23番。着いて来て」


「はい」


ロイ君は私のキャリーケースを引っ張りリビングから出て行った。

なんだか申し訳ないね。

イケメンさんに荷物を持たせるのって。

私も明子さんと駿君に一礼してリビングから出る。

リビングから出てすぐにロイ君が立っていた。


「遅い」


「ごめんなさい」


怒っている!!

なぜ?

少しの時間も待てないの?

明日は大丈夫?

乗り物に乗るならかなり待つと思うけど!


「ここから近いから覚えられると思います。すぐそこに角を右に曲がって次の角を左に曲がる。そこから10歩くらい進んだところに23番の部屋があります。ちなみに俺の部屋は23番の左3つ目。何か分からないことがあるなら部屋に来て下さい。早急に対応しますから」


「ありがとうございます」


「では、案内します」


ロイ君の後ろを追いかけるように歩くこと1分。

本当に近かった!!


「どうぞ」


ドアを開けてくれたので部屋の中に入る。

…………………。

まさかの豪華部屋ですか。

ダブルサイズのベッドに2人掛けのソファと1人掛けのソファ。

壁掛けテレビと女性にはありがたい化粧台。

高級ホテルか何かですか?

冷蔵庫まであるぅ。

部屋にトイレとシャワー付きって助かるよね。


「ご自由にお使い下さい。冷蔵庫の中には水とお茶が入ってますのでどうぞ。ケルトもあるのでお湯を沸かしてコーヒーも飲めますよ。アイスも入ってますので食べて下さい。タオルなども揃ってます。明子さんに用事があるなら部屋に備えている電話で連絡してください。俺の部屋にも繋がりますよ。内線211で。何か質問は?」


「ナイデス」


「そうですか。夕食の時間になったら呼ぶますから。では、ごゆっくり」


ロイ君が出ていってからすぐにベッドにダイブ。

あ~っ、怠いわぁ。

快適なフライトだったけどさ。

庶民的には金額面でダメージだわ。

金額が頭の中で回っているのよねぇ。

まずは携帯の充電が先だよねぇ。

通話はしないけど。

通話代が馬鹿高いし。

のそのそとベッドから移動して動き出す。


「もう歳だわね」


身体が重いのうぉ。

あれぇ?

おかしいな。

まだ、20代なのに。

衰えを感じる。

友達も言っていたっけ。

いつまでも若くないと。

子供を産んで母親になった友達の言葉ってなんだか重いよね。

人生の先輩のように思える。

ソファーに座りダラッと足を伸ばす。

あと数時間には夕食の時間だっけ?

眠りたいが、今寝てしまうと夜眠れなくなるよね。

それは辛いな。

明日はハードな一日になりそうだし。

このままボーッと待つかぁ。

ボーッと待つこと数時間。

部屋のノックが聞こえ夕食時間になったらしい。

ドアを開けるとロイ君が立っていた。


「行きますよ」


「はい」


ロイ君の後ろをついていくと先ほどいたリビングの隣の部屋に入る。

そこはこれまた大きなダイニング。

明子さんと駿君に知らない男の人がすでに来ていた。


「23番。休めた?」


「はい。大丈夫です」


「それは良かったわ。紹介するわ。この人は私の夫の高野敏。昔、ラグビー選手だったから身体はがっちり!!頼りになるわ」


黒髪のサラサラストレート。

黒淵メガネが似合うダンディーな人だ。


「初めまして。真人様の屋敷で働く23番と申します。駿君とは仲良くさせていただいてます。この度のご招待ありがとうございます」


「そんなに固くならないで。もっと軽く。もっとフレンドリーにしよう。さぁ、食べようか」


なんだか似たもの同士な夫婦だな。

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