23番は海外に行く
第53話
…………………。
…………………。
…………………。
完全に忘れていた。
私の常識が通じないことを。
エコノミークラスだと思っていた私を叩いてやりたい。
ラウンジで気づけよって感じだけどさ。
まさかの…………………
「おい。大丈夫かよ」
「半個室の席と正面の画面は23インチ。足が伸ばせるオットマン付き。フカフカな枕も完備。飲み物のメニューにはシャンパン。どこの社長夫人だよ」
「…………………」
「つーか、隣の席遠いよね?腕が伸ばせるよ。わーい、隣の人にぶつからないぞ。頭が隣の人にもたれかからないぞ。どこの金持ちだよ!」
「いや、静かにしろよ。大人げないぞ」
「駿君。君には分からないよ。私のこの気持ち。帰りもこれ?」
「そうだけど。恥ずかしいからやめてよ」
「ごめんね。庶民にはなかなか乗れない席だから。テンションがおかしいの。テレビ見ていい?」
「見れば。俺も見るし」
満喫しないとね。
こんな席これから先乗れないよ。
しかも仕事先からでしょ?
嬉しいな。
私の財布は暖かいままだ。
あぁ、穏やかな時間だ。
23インチの画面に映し出されたのはどれも話題な映画ばかり。
「失礼致します。お客様、お飲み物はいかがでしょうか?」
CAさんから渡されたのは飲み物をメニューだ。
お酒を飲みたいけど一応仕事中だしなぁ。
「23番。飲めばいいじゃん。気にするなよ」
「駿君。なんて優しいの!んじゃ、このワインを」
「はい。かしこまりました」
は~ぁ、こんなことしていいのかなぁ。
仕事中にお酒を飲んで映画を見て寝て。
起きたらアメリアでしょ?
幸せすぎる。
この幸せが終わったら地獄だったりして…………………
いや、そんな考えはやめておこう。
本当にそんなことになったら嫌だし。
駿君は見ると本当に慣れていて自分の空間が既に出来上がっていた。
テーブルには漫画本と飲み物。
映画は流れっぱなしで見てないような見ているような。
怖いね。
まだ小学生の子はファーストクラスでこの慣れようだ。
エコノミークラスを知らないよね?
あのキチキチの空間。
これを体験しちゃったらもうエコノミークラスは耐えられないよ。
し・あ・わ・せ。
映画と機内食と睡眠を楽しむと長いフライトも凄く短く感じるものだ。
機長のアナウンスが流れもうすぐ着くらしい。
シートベルトのランプが付いていよいよ着陸準備。
この幸せな時間が終わるのか。
悲しい気分だ。
無事に着陸するとお客さんがワラワラと降りる準備をする。
「23番。行くぞ!お母さんがもう来てる」
「うん」
お母さんに会えるのが凄く嬉しいのか駿君の足取りは軽い。
荷物を受け取りパスポートの確認が無事に終わるとやっと外に出られた。
厳重な警備だねぇ。
「あっ!いた!!!」
「駿君!走ると危ないよ!」
駿君は一直線に少し離れにいる人のところまで走って行く。
あぁ、あれが駿君のお母さんか。
黒い髪色でユルユルのフワフワパーマ。
小柄な体型で優しそうな雰囲気だ。
「お母さん!あれが23番だよ」
「まぁ、可愛らしいお嬢さんね」
全然可愛らしくないですよ。
お世辞ですねぇ。
「初めまして。真人様のお屋敷で働いております。家政婦23番です。どうぞよろしくお願い致します」
「そんなに固くならないで。駿から話しは聞いているから。普通に話していいのよ。私は真人の叔母であってあなたの主人ではないのだから。お名前は?」
「23番でお願い致します」
「…………………そこは徹底的なのね。いつものことだけど」
「申し訳ございません。決まり事なので」
「しょうがないわね。疲れたでしょうし早く家に帰りましょうか。さぁ!車に乗って」
車ってこの高そうなセダンはでしたか。
運転手さん付きなのね。
あらぁ、大きなテレビ付き。
どんな仕事をしているのでしょうね。
車に乗り外を眺める。
日本にはない景色だねぇ。
道端でなんか踊ってるし。
「駿。いいお知らせよ。お父さんとロイも一緒に行くことになったの。良かったわね」
「本当!?」
「本当よ」
「やった!!みんなで行くのか。楽しみ!!」
「そうね。久しぶりだものね。家族そろって遊びに行くなんて」
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