第52話

駿君の荷物はとても少ない。

まぁ、家があっちだもんね。

少ないのは当たり前か。

表側の玄関から出るのか…………………

あまり表側には行きたくないなぁ。


「駿。お土産よろしくね。楽しみにしてるからね」


真人様がスーツ姿でお見送り。

駿君は嬉しそうにお土産をたくさん買って来ると言って外に飛び出す。

転ばないようにね。


「23番。駿のことよろしくね。迷子にならないようにしっかり見てね。というか、23番が迷子にならないように。迷子になったら終わりだよ」


不吉なことを言わないでほしい。

一番の不安は会話なんだから。

迷子になんかなったら日本に帰って来れない。

英文だって読めないのに。

迷子センターだけ読めるようにしとく?


「23番。気を付けてね。楽しんで行っておいで」


楠の言葉が凄く優しく聞こえるのはなぜだろう。

真人様が強すぎて薄くなるのかな。


「では、行って参ります」


二人に背を向けて外に出た。

黒いセダンの車に乗り込み運転手さんが笑顔で出発しますと言う。

駿君は早く早くと急かす。


「駿君。飛行機の乗り方分かる?」


「大丈夫だ!まかせろよ!」


「うん。お願いね」


小さいけど頼もしい。

頼りになる男の子は好かれるぞ。

モテモテだぞ。

憧れの真人様よりモテモテになるって。

マジで。


「あっちの空港にはお母さんが待ってるからな」


「何時間フライト?」


「12時間くらい?天候の影響にもよるけどな。時差ボケするから1日目は家で休むぞ」


「そうだよね。海外って時差があるから厄介だよね。昼に出て昼に到着とかって嫌だよね。あれ?時間が戻ってる?みたいな感覚になるから」


「お前、海外に行けないな。時差は絶対だぞ」


「…………………馬鹿を見るような目で見ないで。なんだか、悲しくなるから」


「大人なのにな。常識だぞ」


「…………………」


ごめんよ。

海外渡航の常識は知らないの。

修学旅行でしか行かなかったからね。

自分の自己紹介くらいしかできないから。

名前のみだけど。

あと出身地かな。


「駿様。空港までお時間がございますので映画でもどうですか?」


運転手の人が気をきかせて駿君が好きそうなアニメを流す。

空港まで1時間くらいだったかな。

眠ってしまいそうだよ。

昨日の夜が悲惨だったからな。

もうあれは嫌だな。

真人様が変な嫉妬心を燃やすからなのか…………………


「23番。寝るなよ!寝そうだぞ!」


「大丈夫だよ。駿君。目を閉じてるだけだから」


「いや、寝る気満々じゃん」


眠いのだよ。

駿君は知らないもんね。

あの時の状況なんて。


「23番!おーい!」


実家に帰りてぇな。

あっ、弟の車の件を話さないといけないのか。

どうすっかなぁ。

どうやって怒らさず了解を得るかだ。

下手したら私のことまで言われそうだ。

結婚しろからお見合いしろになり見合い相手を見つけたって言われそうだ。

実家に戻って専業主婦にでもなれって言われそうだな。

田舎好きだけどね。

あ~っ、マジでどうやって車のこと話すかなぁ。

お母さんを味方につけるか?

いや、それならおばあちゃんを味方につけるべきか?

おばあちゃん何気に強いし。

お父さんのお母さんだし。

母親って強いし。

おばあちゃんを説得して味方につけてお父さんを叩き込み作戦!

よし!これで行こう!!


「23番!空港に着いたぞ!!」


「何!?もう着いたのか!?」


顔を上げて外を見ると空には大きな音を立てて飛び立っている飛行機が見える。

マジか…………………

車から降りて運転手さんにお礼を言う。


「23番。フライトまで時間あるし店見るか?」


「そうだね」


コロコロとキャリーケースを引っ張りながら駿君の隣を歩く。

本当に駿君は慣れているのねぇ。

お姉ちゃんびっくりだわ。

地図見ないでスタスタ歩いている姿が大人に見えるぞ。

頼もしい。

お化けが怖い駿君はここにはいない。


「俺、ここに行きたい!」


「はいはい」


駿君が入ったのは日本の有名所のお土産がたくさんあるお店だ。

きっと家族に買うのだろう。

優しい子だよ。

お土産を選んでいると時間はあっという間だ。

荷物を預けてあとは乗るだけ。

人生二度目の飛行機。

26歳なのにワクワク感は昔のままだ。

心はまだ若いのねぇ。

知らなかったよ…………………

飛行機に乗り込むまでそのワクワク感は消えなかった。

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