第50話

「俺なら探るね。何か悪いことを考えていそうじゃない?急にそんな態度おかしいでしょ。そう思わない?」


「あはは。申し訳ございません。そろそろ寝ましょう」


「そうだね。本当に寝坊しちゃいそうだし」


真人様は絶対に私を離すことはしないようで、腕の中に閉じ込められたまま寝るようだ。

マジで苦しいぞ。


「真人様」


「うん?」


「本当に苦しいので少しだけ緩めて下さいませんか?」


「…………………ん」


あっ、少しだけ緩まった。

本当に少しだけどね!!

あと数時間と思えばいいか。

飛行機の中で寝るしかないね。

ここは寝た振りをしようではないか!

それしかないよね。

少し経つと真人様から寝息が聞こえ出した。

どうやら本当に寝てしまったらしい。

私は、抱き枕みたいな感覚なのか…………………

ずっと同じ体勢って辛いのにさ。

寝返りとかしないの?

したほうがいいよ。

しないのは問題ありだからね。

ガチャッ…………………

ん?誰か入って来た?


「23番。大丈夫?」


小さい声で話しかけるのは楠だった。

この状況が大丈夫に見えるのかい?

馬鹿か?

お前は馬鹿なのか?

ん?この状況を見て大丈夫?って何?


「楠さん。今すぐに助けて下さい」


「ゆっくりそこから出ていいよ。真人様は熟睡するとなかなか起きないタイプだから。ゆっくりなら気づかない」


「急に空間が出来て気づきませんか?」


「枕を身代わりにしてよ」


「そうですね」


ゆっくり身体を捻じって真人様の腕を退かしていく。

本当に起きないのねぇ。

マジで熟睡?

枕を間に挟み込みなんとか脱出。

ベッドから降りて肩を回す。

疲れた。

家政婦の仕事より疲れる。


「自分の部屋に戻ります」


「いや、そこのソファーで寝て」


「…………………」


はぁぁあん?

お前は何を言ってんだ?


「タオルケットとか準備したからね。カウチソファーだから寝れるよ。部屋に戻って寝ると真人様の機嫌が悪くなるから」


「…………………」


「んじゃ、おやすみ」


「…………………」


楠は寝具を私に渡すとスタスタと部屋から出て行った。

なぜなんだ?

疑問だらけですけど。

上司命令でもあるから仕方なくソファーに寝るけど、納得できない自分がいる。

でも、まぁ、さっきよりは寝やすいけどね。

窮屈でもないし苦しくもない。

横になるとすぐに睡魔に襲われて目を閉じた。




***




夢を見た。

私の嫌いな物が一斉に襲ってくる夢だ。

お見合い写真と実家の鶏。

昔友達がペットとして飼っていた蛇。

クレジットカードの明細書。

悪夢だ。

多分魘されているだろう。

苦しさから急に夢から覚めて目をカッ!と開く。


「おはよう。23番」


…………………。

…………………。

目の前には素晴らしく綺麗な胸板と素晴らしく整った顔。

なぜ前のボタンを外しているのかは分からないがとても色気を感じる。

欲情するという言葉がとても分かる。

…………………。

…………………。

色男最高。

って!!!言ってる場合ではない!


「お、おはようございます!真人様!」


なぜだ!?

どうして私はベッドに寝ているの?

カウチで寝ていたのに。

隣を見ると駿君の姿がなく寝ていたところを触ると冷たいことが分かった。

駿君がいなくなってかなり時間が経過しているの?

私、寝坊した!?

時計を見ると6時前。


「そんなに慌ててどうしたの?もう少し寝ようよぉ。あと1時間」


「ま、真人様。駿君がいませんが?」


「ん?あぁ、駿は楠のところにいるよ。早く起きちゃってね」


「えっ?」


「朝食の時間になるまで楠が面倒を見ることになったの。俺はまだ寝たいしさぁ。」


「では私も起きます。真人様はどうぞゆっくりお休みください」


「あのさぁ?23番は学習能力がないの?馬鹿なの?ここはこのまま一緒に寝るべきだよね?馬鹿なの?つーか、何勝手にカウチで寝てるの?俺、カウチで寝ろって言った?ねぇ?そんなこと言ったかな?どうなの?答えろよ。ねぇ?俺はそんなこと言ったかな?」


「…………………言っておりません」


「だよねぇ。言ってないよねぇ。本当にムカつくな。23番」


いや、私の気持ちも考えて下さいね。

クソガキ。

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