第45話

「何か?」


「制限時間は20分ね。それ以上時間が過ぎる場合はお風呂場に入るから。長湯禁止」


「20分!?」


「うん。十分だと思うよ。何?駿の背中とか洗ってあげるの?」


「……………………」


そのつもりでした。

申し訳ございませんでした。


「ドアの前にいるから。何かあったら声をかけてね」


監視ですね。

何?

駿君を襲うとかしないよ。

そんな趣味ないからね。

私、年上が好みだから。


「分かりました」


お風呂が部屋に行くとすでに駿君が待っていた。


「遅いぞ!」


「ごめんね。これでも急いだから。制限時間は20分らしいよ」


「制限時間?」


「長湯しないようにってこと、急いで入らないと間に合わないね」


「……………………面白くないな」


「駿君。ごめんね」


そんな、悲しい表情しないで。

それに、早くしないと時間になるよ。

もう、時間計測してるからね。

20分という時間の中で楽しく入るのは無理だ。

体をしっかり洗うことはできるけど。

服を脱いでお風呂場に入る。


「駿君。座って。頭洗ってあげる」


「……………………ん」


「……………………」


「……………………」


「もういいか」


「ん?」


「時間なんて気にしなくていいよ。急いで怪我とかしたら大変だからね」


「怒られるぞ」


「そうだね。でもさ?濡れた床って危ないよね。滑って頭を打って病院に運ばれたとか嫌だよ。責任は全部私だからね。責任取れとか無理だからね」


「お前、それを俺に言うんだな」


「あはは。申し訳ない」


「右がかゆい」


「はいはい」


「お前の背中洗ってやるぞ!」


「それはありがたい」


「お前の弟もやったのか?」


「やったね。でも、凄く下手だった。爪が背中に当たって痛いの」


「血だらけ?」


「そこまでじゃなかったけど。よし、流すよ」


「うん」


シャワーで優しく泡を流す。

これでさっぱりだね。

今度は背中を洗うか。


「駿君。前は自分でお願いね」


「うん」


「もう10分過ぎたね」


「あっという間だな!なぁ?また潜る競争しような」


「いいよ。私が勝つけどね」


「そんなことない!俺が勝つ!」


「いやいや、ここはお姉さんである私が勝つって決まっているの」


「黙れ、ぺちゃぱい」


「……………………」


バシッ!


「痛い!!叩くなよ!」


「さぁて、私も体を洗おうかな」


「俺の途中だろ!?」


「お肌がスベスベになるボディーソープだって。これ、高そうだね」


「聞いてねぇし」


「このリンスって凄くいい香りがする。高級品はやっぱ違うわぁ。いつも安売りのしか使わないからな」


いくらするのかな?

125円とかじゃ買えないよね。


「お前の背中洗ってやる!」


「自分でやるからいいよ。なんだか、痛そうだから。今の顔は意地悪をしようとしてる顔だよ」


「しねぇよ」


「するね。絶対するね」


ゴシゴシと自分の体を洗ってシャワーで泡を流す。


「湯船に入るよ。滑らないようにね」


「大丈夫だ。よちよち歩きの赤ちゃんじゃないぞ」


「そうだね。でも、私からだと同じだよ」


「全然違うだろ!!」


はいはい。

いいから入ろうね。

あ~~~ぅ。

気持ちいいわ。

最高だね。

足もしっかり伸ばせるし。


「俺より先に入るなよ」


「もうどうでもいいかも」


「……………………おばさん」


「えっ?何か言ったかい?ん?あぁ、そんなに一人で入りたいのか」


「綺麗なお姉さんだなって!」


「それはありがとう。お姉さん凄く嬉しいな」


「……………………」


駿君は本当に可愛い子だ。

どことなく大雅に似ているし。

そういえば、車の件なんとかしないとな。

お父さんと話しをするにはどうすればいいか。

あの頑固親父を納得する方法か。

難しいな。


「23番。競争するぞ!」


「よし、いいよ。せーの」


息を止めて潜る。

よし、まだまだいけるぞ。

そう思ったのは少しだけ。

私の足の裏を擽る指。

ゴボゴボと口から空気が抜けて我慢できなくなり空気を求めて浮上する。


「ゴホッ!」


「俺の勝ち!」


「ズルい!それはズルい!足の裏を擽るとか!それはズルい!」


「手段は選ばない!」


「真剣勝負でしょ!」


「俺は真剣勝負をした」


「してねぇよ!!」

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