第32話

「本当はダメだねぇ。お客様である駿と一緒に食べるっていうのもダメ。だけど、駿は特別だから」


そうですか。

では、味わいながらいただきます!

うん、おいしいな。


「楠!」


ングッ!

大きな声で驚いてのどに……………………

フグッ!フッ、はぁ。

もう、なんなのよ。

後ろを振り向くと立花がいた。


「あれ?どうかした?」


「真人様がお帰りになりました。本日は午後の授業はなしだそうです。それで、駿様と遊びたいと。ご昼食後、こちらに参ります」


「はぁ?なくなったの?」


「はい。先生が倒れてしまったみたいで」


あら、なら私がいなくてもいいか。

多分、いちゃいけないだろうし。


「真人兄ちゃん、帰ってくるのか?一緒に遊べるとか最高じゃん!やった!人数いっぱいいたほうが楽しい」


「駿様。あまりご無理をさせないようにお願いしますね?昨日、たくさんの課題をこなしておりましたので」


「分かった!!派手な遊びはしない」


「そうして下さい」


課題で寝不足なの?

大丈夫?

プール遊びって結構疲れるのに。


「楠さん。私はこれで失礼させていただきます。真人様がお帰りでしたらもう大丈夫ですね」


「そうだね。もう大丈夫だよ。家政婦の仕事をして」


「はい。では失礼します。駿君、よか……………………」


あれぇ?

駿君?

おーい。

なんか、凄く不機嫌だな。


「駿様?どうかなさいました?真人様と一緒に遊ぶのが不満ですか?」


「そんなわけないだろ!馬鹿立花」


「馬鹿……………………」


あっ、駿君ヤバイよ。

立花にそんなこと言ったら。


「23番も一緒に遊べ。人数いっぱいいたほうが勝負は楽しい。なんで、真人兄ちゃんが来るからって23番はいちゃいけないんだ?こいつ、真人兄ちゃんが嫌いな使えない奴じゃない。ちゃんと遊んでくれる。嫌な顔しないし」


駿君の言葉に立花も楠もびっくりした表情をしていた。


「俺は23番とも一緒に遊びたい」


「駿様、彼女はまだ新人で真人様にも会ったことがございません。初対面で一緒に遊ぶなど、あまりにも彼女が可哀想です」


「……………………ん」


「分かっていただけますか?本来なら、このように遊ぶこともできない新人です。駿様も知ってますよね?真人様の周りにはいつもベテランの家政婦がいます。礼儀も完璧な家政婦です」


なんだか、腹立つこと言っているように思えるな。


「彼女を守るつもりでここは諦めて下さい。もし、失礼なことがあれば彼女はクビになるかもしれません」


何!?

クビだと?

それは、嫌だ!

失礼なことをすればすぐにクビになるの?

怖い!


「クビは嫌だ」


「では、分かっていただけますね」


「分かった。そうする。23番、ごめんな。お前は、絶対に失礼なことすると思うから無理だ」


「駿君。なんだか、それおかしいから。私、絶対にやらかす?」


「するだろ。俺にしたように」


「それは、あ~ぁ。そうだね」


「だろっ?」


まぁ、クビにはなりたくないからここから離れるか!

椅子から立ち上がり一礼する。


「では、私はこれで失礼します。駿君。また明日ね」


「うん。またな」


駿君はバイバイと手を振ってくれたので私も手を振る。

楠にも立花にも一礼して後ろを振り返り、歩き出そうと一歩踏み出したときだ。

なにやら、陽気な声が聞こえた。

後ろからは立花のため息が聞こえる。

えっ?

何?

出入り口を見ると、誰かが入ってくるのが見えた。

【ご昼食後、こちらに参ります】

立花の言葉が頭の中に響く。

あはっ、まさかねぇ。

でも、どう見ても家政婦でも執事でもないぞ。

見たことない人だもん。

あれぇ?

来るの早くない?

ご昼食後はどこにいった?

私は、立花を見る。

完全に助けを求める表情をした。

それに気づいているはずなのに、知らんぷり。

はーーーっ、それは何!?


「わぁ、みんな揃ってるねぇ。お昼はもう食べたかな?」


あっ、近い。

後ろにいるのは確かだ。

だって、声が凄く近いもん。

陽気な声が聞こえたもん。

あれだっって。

あれだよ。

絶対に、この人が【真人様】だ。

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