第22話

パラリ事件から3週間が経った。

楠はいつも通りだ。

なかったように接してくる。

それも少し複雑だがな。


「23番。あなた。子供好きですか?」


「はい?」


休憩所で2番に言われた言葉に驚く。

子供好きですか?


「実は、真人様のいとこの駿様が遊びに来る予定です」


「はぁ」


「家政婦の仕事は様々です。掃除・お客様のお出迎え・お客様のお世話など。お客様のお子様と遊ぶことも仕事です」


「つまり、その子と遊ぶってことですか」


「はい」


「あの、私にはちょっと」


「苦手ですか?」


「いや、そういうわけではないですが」


「では、問題ないですね」


「新人ですけど」


「問題ないです」


えーーっ。

問題ないの?

本当に?

新人に任せて本当にいいの?

何かあったらどうするの。


「駿様は1ヶ月後にこちらに到着します」


「到着?」


「ご両親のお仕事のご都合で今はアメリカに住んでます」


「そうですか」


「11歳で来年は6年生ですね。日本に来ることをそれはそれは楽しみにしてます」


「分かりました。精一杯遊びのお相手をさせていただきます」


「まぁ、よかった。そう言ってくれた本当に助かるわ」


「……………………」


あれ?

なんだろう。

凄く、違和感がある。

私、やった?

2番のこの表情。

安堵の表情だ。

なぜ、このような表情をするのか。

それは、実際に子供会って理解することになる。



***




「お前、何かできねぇの?」


「できません」


「つまらねぇの。あーーっ、マジつまらねぇ!!真人兄ちゃんも学校でいないしさ。家政婦だろ?何かやれよ。この俺が暇してるの。分かる?マジで使えない女だな」


「申し訳ございません」


「謝ってるだけじゃなくてさ!!何かやれって」


うぅ、こういうことだったのか。

このガキの相手をしたくないから私に頼んだのかよ!!

最初からこんな感じだもんね。


『23番。この方が高野駿様。達美様の妹様のご子息です。駿様。この者は家政婦23番です。真人様邸で働いております。まだ、新人ですが優秀ですよ。きっと駿様もすぐに仲良くなります』


『ふん。新人の家政婦?俺は真人兄ちゃんと遊びたい』


『真人様は大学です。お帰りになるまで23番とお遊び下さい。私はこれからお仕事がございますので失礼致します。23番。今日の朝に話した通りに。では』


『しょうがない。この女で我慢してやる。おい!23番。俺と遊べ』


朝のやりとりがこんなに嫌だと思ったことが今までにあっただろうか。

2番は言いたいことだけ言って去って行くし。

先輩家政婦に助けを求めても逃げて行くし。

私は庭のベンチでつまらなそうにしているガキを見る。

行動範囲は限られるし。

どうしたものか。


「お前、何歳?若い奴この屋敷で初めて見た」


「26歳です」


「あ”っ?26歳?マジで?」


「はい」


「楠と同じ歳か」


「そうです」


「23番って名前何?」


「申し訳ございません。ここでは23番とお呼びください」


「みんなそれ言うよなぁ。おかしいじゃん」


「駿様。何もおかしくないですよ」


「お前も同じこと言うのか。つまんねー。なんかないの?」


「本を持ってきましょうか?」


「疲れるから嫌だ」


「では、トランプでもしましょうか?」


「2人で?」


「では、オセロでもしましょうか?」


「集中すると頭が疲れる」


このガキ、わがままだ。

お坊ちゃまの遊び相手って何するの?

小さい子供なら追いかけっことかかくれんぼとかするけど。

この子は11歳だし。

そういう歳じゃないからな。


「ひまぁー。なぁ?外に出ちゃダメ?」


「お外は危ないですよ。敷地の中でしたら大丈夫です」


「ここはもう飽きた」


「それは困りましたね」


「23番。つまんねー」


「いつも駿様はどのような遊びをしてますか?」


「んー、お前には無理だな。運動音痴っぽいし。鈍間そうだ」


なっ!


「26歳の女が11歳の俺に敵うわけないじゃん。若さには敵わない。無理はしちゃダメだぜ。前も楠と遊んだんだ。ダメだったぞ。やっぱ、若さだな。あーっ、早く真人帰って来ないかな。あいつなら俺と遊んでくれるのにさ。なんで、いつも役に立たない家政婦なんかと一緒にいさせるんだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る