第21話

この貧相な体を早く隠さなければ。

この状況は本当にヤバイ。

しかも、変態野郎だ。

危険すぎる!


「本当に守れる?絶対に叫ばない?もし、守れなかったら……………………」


えっ?

何?

守れなかったら?

目の前の男はにやぁと笑う。


「口を塞いでこのまま君を犯すよ」


「ングッ」


変態すぎる!!

つーか、お前ノックしてねぇだろ。

常識知らないのかよ!

いや、鍵をかけ忘れたのは私か。


「守れる?」


「ングッ!」


「そっか。なら、退くね。約束、守ってね」


楠はゆっくり私の上から退く。

私は急いで足元にあるタオルと拾い上げ体に巻く。


「楠さん。いったい、何をしに来たんですか!ノックもせずに」


「携帯忘れちゃったの。ノックはしたよ。でも返事ないからさ。ドアノブを回したら開いた。叫ぶからびっくりしちゃった。誰も来ないからギリギリセーフだね。ダメだよ。ちゃんと鍵をかけないと。本当に危ないから。冗談で言ってるわけじゃないからね。お客様も泊まるときがあるし、何が起こるか分からないから。ここは田舎じゃないんだよ?」


「申し訳ございません。気づきませんでした」


「まぁ、僕でよかったけど。立花だったら危なかったね」


立花だったら、多分凄く怒るだろうな。

正座で説教だな。


「着替えてきなよ。僕は携帯を探すから」


「はい」


脱衣室に向かって急いで着替える。

なんていうことだ。

本当になんていうことだ!

部屋着に着替えて戻ると、楠が携帯を探しているところだった。


「見つかりません?」


「うーん。確かに、この部屋に置いて……………………僕はどこに忘れたんだ?」


「いや、知りません。楠さん。さっきの件、忘れてくださいね」


「うん?」


「あれは、記憶に刻むのはダメです」


「あぁ。君の体はそんなに見てないよ。君が泣きそうだったしパニックだったし。叩かれたりしてそれどころじゃなかったよ。僕も叫ばないようにしてもらわないとって。まぁ、気にしないで。僕も気にしないから。事故だから」


「うっ、私も探しますよ」


彼氏が出来たことがない私が、彼氏でもない男に見られるとは。

複雑すぎる。

というか、ここから消えたい。

早く見つけて帰ってもらおう。

キッチンにいたからそこにないの?

うーん。

食器棚を覗き込み探してみるが見つからない。

キッチンの上とか?

下もないか。

ゴミと一緒に捨てた?

どこかに紛れたのかな。


「23番からいい香りがする。お風呂上りだからかな?女の子のお風呂上りってなんだかそそられるよねぇ。くふっ」


んぎゃっ!

また、こんなに近くに!

気配がないけど。

静かに近寄って来ないでよ。


「楠さん!早く携帯を見つけて下さい!」


「見つけたよ。なぜか、ベッドの下にあった」


「見つけたなら出て下さい」


「冷たいなぁ。まぁいいか。23番。しっかり、鍵をかけること!いいね」


「はい。大丈夫です。もう忘れません」


「うん。約束だよ。もし、守れなかったら本当に犯すぞ」


「忘れません!!」


「うんうん。いい子」


早く出て行け!!

頭を撫でるな!


「楠さん。夕ご飯の時間なのでもういいですか?」


「うん。いいよ。明日もお仕事頑張ってね」


「はい」


楠は凄くいい笑顔で出ていった。

もう、何もしたくない。

まさかの出来事だ。

こんなこと、誰にも言えないよ。

泣きてぇ。

もう、今日は何もしたくないよ。

床にはさっきまでおいしく食べていたアイスが落ちていた。

あれ、片付けてもう寝るか。

ご飯はもういいや。

うっ、ううっ、鍵をかけましょう。

もう、こんなことにならないように。

しっかりと。

私の馬鹿野郎。

なんでだ。

いつも鍵を掛けるの忘れることないのに。

浮かれていたのかな。

気が緩んでる証拠だね。

本当に馬鹿野郎……………………

その日はベッドに抱き着くように寝た。

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