第20話
食器が入っている段ボールを楠に任せて、私は服や靴にバッグなど任せることができないものを中心に収納する。
この6年で12回の引っ越しをしたことがある私にとってもうお手の物。
洗面所も風呂も完了。
寝室も整えも私がやって、終わった!と感動したときに楠から声をかけられた。
「終わったよ。凄いね、23番。慣れてるの?」
「ありがとうございます。私、12回も引っ越ししたので。こういうのは得意です」
「12回!凄いね」
「なかなかいい物件がなくて。生活の音が気になるタイプなので」
「へーぇ。僕に文句言わないでね。例えば、足音がうるさいとか洗濯機の音がうるさいとか」
この人、ちゃんと分かっているのか。
うーっ。
まぁ、少しの辛抱だ。
3日後に取り壊しで半年後に完成。
半年なんてすぐだよ。
この歳になると本当にあっという間だ。
あれ?もう正月きたの?って感じだ。
正月は実家でのんびりできるからいいよね。
甘酒飲んでお父さんと一緒に日本酒飲んで、大雅と一緒にビール飲んで。
あれ?飲んでばっかだ。
「もう、6時すぎましたね。今日はありがとうございました。お礼に実家から送られてくる野菜をプレゼントします」
「わぁ、いいの?ありがとう」
「はい。たくさん送られてくるので」
「実家が農業っていいね」
「はい」
「じゃぁ、僕はこれで失礼するよ。あぁ!いつでも夜這いしていいからね」
「お疲れ様でした!!!」
楠をグイグイ押して部屋から追い出す。
やっと、一人になれた。
さて、風呂にでも入るか。
体がベトベトだ。
今日はプチ贅沢しようかなぁ。
温泉の素でも入れてゆっくり入ろう。
鼻歌をしながら風呂の準備をする。
こっちの浴槽は少し大きいな。
その分、たくさん湯が必要になるから……………………
なんだか嫌だな。
時間も掛かるし。
うーん。
体洗いながら待つか。
私は服を脱いで入る。
ゴシゴシと体を洗い、汗でベトベトになった髪もゴシゴシ洗う。
丁寧に洗っていると湯も沸いた。
温泉の素を入れてよくかき混ぜる。
これで、完璧。
右足からゆっくり入り湯船に肩まで浸かる。
「あ”ーーーーっ、生き返るわぁ。体がほっこり」
気持ちよさにおじさんみたいな声を出してしまった。
それにしても、マジでいいわぁ。
体のこりがほぐれる。
今日はよく働いたよ。
風呂から出たらアイス食べたいなぁ。
今日の夕ご飯はどうしようかな。
22番から貰ったロールキャベツに4番から貰った赤飯。
それとも、パスタか?
ビールも飲みたいな。
むふふっ。
風呂から上がるとタオルを体に巻いて冷蔵庫からアイスを取り出す。
「はーーっ、おいしいわぁ」
こんな姿で食べるとかダメだと思うけどさ。
風呂上りすぐに食べるのがいいんだよねぇ。
右手にはアイスを持って、左には髪を服タイルを持つ。
ゴシゴシと髪を拭き脱衣室に向かうところに、廊下に出るドアが開いた。
はっ?
えっ?
ん?
「わぁ、凄いいいもの見れた」
……………………。
「ぎゃーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
頭の中で理解するのと同時に私は大声で叫んでしまった。
「うわぁ!ちょっと、うるさいよ。そんな声出さないで。屋敷に響くでしょ!!」
「フグッ!」
「静かにして。こんなところ誰かに見られたらいやでしょ」
おい!
そんなに近づかないで!
お願いだから!
口を手で塞がれ、この状況から逃げようともがく。
楠から逃げようと手で力いっぱいに押す。
それと同時に楠の足を狙って蹴る。
もうパニック状態だ。
冷静に考えることもできない。
「落ち着いてよ!うわっ!痛いから。ちょっと暴れないでよ。おちついドワッ!!!」
グラッと体が後ろに傾いて楠と一緒に床に倒れる。
ゴツッと鈍い音と痛みを感じたが今はそんなのどうでもいい。
タ、タ、タオルーーーーゥ!!
「ん”ーーーーーーっ!!!」
「いたぁ」
私の体を隠していたタオルが!
あのタオルが!
足元にありますけど!
楠の手が生々しく感じる。
退けよ!
手と足で楠を叩いたり蹴ったりする。
「痛い!落ち着いてよ!痛いって!」
「フグッ!ングッん”ーーーーっ」
私の手を掴むな!
いいから退けよ!!
見るな、見るなぁぁぁ!!
私の攻撃を簡単に押さえないでぇ。
「あれ?涙目?……………………叫ばない?それが出来るなら退いてあげてもいいよ」
私は急いで頷く。
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