第19話

「そうですね」


「真人様が帰って来る時間は6時です。それ以降の作業は許しません」


「はい」


「明日の仕事もありますし。手伝いの人を増やしましょう。仕方ないですね。ちょうど、楠が暇なので」


「……………………」


使えない奴を寄越されても困るよね。

立花は逃げた楠を探しに屋敷に戻った。

それから、数人の家政婦が来て達美様組を手伝ってくれることになった。

私は真人様組だ。


「2番。この靴が入った箱はここでいいですか?」


「えぇ。そこでいいです。23番。そろそろ、あなたも自分の部屋の荷物を運びなさい。大きい家具は業者に頼んだ?」


「はい。もう、運び終えてると思います。あとは自分で持ち運び可能なものだけです」


「そう。なら、自分の部屋を片付けて」


「分かりました」


やっと自分の部屋のことができる!

時計は4時を示していた。

自分の部屋に行ってまとめていた段ボールを持つ。

さぁ!行こうか!

一歩踏み出した瞬間私が持っていた段ボールが消えた。

あれ?


「手伝うよ」


……………………。

楠、お前か。

楠の手にはしっかり私の段ボールが。


「忙しいのでは?」


「ん?うーん。さぁ!あと2時間だね!頑張ろう」


何も言わないのかよ!

運ぶのを手伝ってもらえるのはありがたいが、私の部屋以外をお願いしたい。

私はもうひとつの段ボールを持って楠を一緒に仮部屋に向かう。


「大きな家具は終わったの」


「はい。先に業者で。あとはこういう物だけです」


「そっか。23番の部屋が一番簡単だよねぇ」


おい。

だから、私の部屋をやるのかよ。

部屋の中に入って通路の邪魔にならないところに置く。


「懐かしいな」


「懐かしいですか?」


「うん。新人の頃はこっちに住んでたからね」


「そうですか」


「今は2階の使用人部屋だけど。1階の使用人部屋は音がうるさうて嫌だったなぁ。今はそうでもないね。ボイラーが近くないからかな。こっちはベッドルームとキッチンが分かれているからあっちよりはいいんじゃない?」


「そうですね。別は嬉しいです」


「だよね。僕の今の部屋も別なんだ」


「そうですか」


「ちなみに、ここの上が僕の部屋」


「……………………」


マジか!!

足音とかうるさかったら文句言うからね。

私、部屋を借りるときはいつも一番上なんだから。

アパートは絶対に上の一番端だ。


「僕の下に23番がいるのかぁ。そっか。なんだか、楽しいね」


「楽しくないです。次の荷物を運びましょう」


「えーっ、何か言ってよ。夜這いします、とか」


「あぁ、大変だ!もうこんな時間です!急ぎましょう!」


「あっ!逃げないでよ!」


逃げるわ!

怖いこと言うなよ。

誰が夜這いなんかするかよ!

お前みたいな変態なんかに。

自分にメリットがある奴のところに行くから。

いや、そもそも夜這いなんてしたいとも思えん。

楠の話もほぼ聞き流して、部屋を何度も往復する。

全部の荷物を運び終えたのは5時だった。

1人だともっと時間が掛かったな。

まぁ、感謝はしておこう。


「あとは、一人で大丈夫ですので。ありがとうございました」


「折角だから収納も手伝う?」


「遠慮します」


「えーっ、ここからが大変だよ」


「大丈夫です!もう少しで真人様が帰ってきますよね?お出迎えしなくて大丈夫ですか?楠さんがいなかったら悲しくなるかもしれませんよ?そんなこと執事失格です!さぁ、戻って下さい。ここは私に任せて下さい。あぁ!こんなことをしている間に5時過ぎましたよ。大変です。6時ですが、もしかしたら少し早めとかもあり得るかもしれません。立花さんも怒りますよ。お出迎えしない楠さんに雷が落ちるかもしれません!」


「23番。必死で僕のこと追い出そうとしてるでしょ」


「……………………」


「そんなことしていいのかな?」


「……………………」


「真人様はお出迎えに僕がいなくても怒らないよ。心配もしない。立花がいないほうが心配だ。それに、夜にゴソゴソうるさいのヤダ。君の上は僕の部屋なんだけど。分かった?」


「……………………では、食器類の収納をお願いしてもいいですか?」


「うん。いいよ。僕は優しいから手伝ってあげる」


「わぁ、嬉しいですぅ」


負けた。

今日一番の失敗だ。

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