第13話

「姉ちゃん。この車さ」


「うん」


「いくらした?」


「それ聞いちゃうの?」


「ん、教えて。参考にしたい」


「買うの?」


「欲しいなって思ってる」


「ほとんど軽トラックで移動するのに?」


「なっ!それは仕事の時だけだし!俺は姉ちゃんのお下がりだ。もう、いいじゃんか。免許取って2年だし!」


「お父さんはなんて?」


「いらないって」


「だろうねぇ。あまり乗らないのに。説得してほしいの?」


「……………………」


「なんとなく分かった。お値段は410万だ」


「頑張ったな」


「うん。今も頑張ってる」


「ローンか」


「ローンだ」


家族に内緒でこの車を買ったときは凄く怒られたのを覚えている。

特にお父さんに凄く怒られた。

こんな高い買い物をしてしまったんだ。

だけど、自分で払えると確信したから買ったのだ。


「大雅。ちゃんとお父さんに言いなよ。姉ちゃんのときを思い出してみろ。あの光景は凄まじかった」


「怖いのは知ってるから」


「だよねぇ。怒ると怖すぎだよ」


「怒られるのはいつも姉ちゃんだけど。俺がいい子だからな」


自分で言うのかよ。

目的地に着くと駐車場は空車だらけ。

お昼の時間はとっくに終わってるし。

お店の中に入るとすぐにテーブル席に案内された。


「メニュー!おっ、うまそう。なんでもいいのか?マジでいいのか?」


「いいよ。少し落ち着け」


ここのお店は1000円くらいのしかないからどれでもいいぞ。


「姉ちゃん。冷蔵庫に酒ある?」


「あーっ。ないな。帰りにコンビニ行く?」


「行くぞ!!」


本当にかわいい弟だ。

図体はデカいけど。


「姉ちゃん、決まったか?」


「うん」


「押していい?」


「いいよ」


お客さんそんなにいないから多分すぐに持ってきてくれると思う。

家に着くのは4時近いなぁ。

店員さんが注文を聞きにくると大雅は自分が食べたいものに指をさした。


「姉ちゃんは?」


「私は、ステーキとミックス焼きセットでお願いします」


店員さんが厨房のほうに去っていくのと同時に大雅が重苦しい表情で私を見る。

それを見て私は優しく大雅に微笑んだ。


「泊まりにくるくらい、どうにかして欲しいの?」


「うーーっ」


「ん?」


「あの、えっと。あーーっ」


しっかりしろよ。

男だろうが。

お父さんはとても男らしいぞ。


「何?ちゃんと言いなよ」


「ん」


「男はシャキッとする!」


「だって……………………」


「私は、言われないと動かんぞ」


「……………………」


「どんな車を買おうとしているのか知らんけど、そんなに説得が難しい車を買おうとしてるの?」


「あーっ」


「いい加減言えよ。追い出すぞ」


「よし!言うぞ!!」


「おう。言ってみろ」


「父さんになんとかお許しをもらいたい!俺じゃダメだ。姉ちゃんのお力が必要です!!ちなみに600万ほど車を買おうかと」


「……………………」


「……………………」


はぁ?


「姉ちゃん?怒った?」


「いや、驚いてる。金額に驚いてる」


「母さんにも同じこと言われた」


「それは、説得できないね。金額があまりにも飛びぬけてる」


「そこをなんとか」


「いや、600万だよ?お父さんなら、農業機具を買ったほうがいいって言われるから」


「言われた」


「……………………」


私くらいの金額でもあれだけ怒ったのにさ。

凄まじいな。


「大雅。いつお父さんに言ったの?」


「4ヶ月前。それから説得中」


「結構前だね。姉ちゃんが帰ったときはそんなの聞いてない」


「父さんに絶対にその話をするなって言われてた」


「そっか」


「姉ちゃんに頼むの凄く悩んだ。巻き込みから」


「大雅。今日のことお父さんとお母さんには?」


「姉ちゃんのとこに遊びに行ってくるって言った」


「うーん。今回の説得に期待しないでね」

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