第5話

何を話しているかと問われてもねぇ。

スーパーの安売り日とか、22番の旦那さんの悪口を聞いてるとか、高校生の息子さんの大学受験とか、料理があまりできない私のために簡単レシピとか。


「22番はお買いもの上手なのでどこのお店が安いとか」


「あぁ。食料品か。この町は高いからちょっと外れに行かないと安くないでしょ?」


「そうですね」


君たちみたいに高級なものなんて食べられませんので!

寿司だって回転だけしか食べられないし。


「よくみんなから貰ってるよね?おすそ分け」


よ、よく見ていらっしゃる。

貰えるものは貰う。

料理が苦手な私にはとても助かる。

料理の本も一応部屋にあるが分量とか味付けとか意味分からなくなる。

食材の入れる順番とかも最初から全部入れちゃうし。


「僕も欲しいなぁ。おすそ分け」


「下さいって言えば貰えますよ」


あなたのその顔なら大丈夫です。

みんな、年上だから息子くらいに思ってますから。


「えっ、もしかして23番は下さいって言ってるの?」


「言ってないですよ。そんなこと言えるわけないです」


「だよねぇ。ちょっと驚いちゃったじゃん。う~ん。じゃぁ、23番のちょうだい」


「申し訳ございません。私は料理をしないので」


「嘘だ。ちゃんと料理道具揃ってたよ。食器を洗った感じあったよ。貯蔵庫にはじゃがいもとかあったよ」


な、なんで知っているんだ。

あっ!あの時か!鍵の件か!


「鍵を見るだけなのになんで私の部屋の中を見ているんですか?」


「気になったから。テレビないなぁって」


「まだ、買ってないだけです!」


「テレビあげようか?使ってないテレビが物置にあったはずだから」


「いらないです」


「えーーーっ。タダなのに」


「自分の気に入ったものを買いたいです」


「今なら僕と1日デート券付きだよ」


「必要ないです」


そんな券いらないから!!

他の家政婦にやれよ。

22番とかにね。


「あっ、ここに角を曲がると呉服屋だよ。柴田呉服屋」


駐車場に車を止めてお店の外観をじっくりみる。

立派な門構えだなぁ。

純和風っていうの?

車から降りて楠の後ろを歩く。

こんなところ普通の人は来ないよね。

門構えを抜けると立派な庭が広がる。

玄関は木製の引き戸で年季がかなり入ってる。


「ごめんください。篠原真人様の着物を受け取りにきました」


「はーーい」


建物の中から着物姿の女性が出てきた。

これまた、かなりのお歳で……………………

真っ白な髪に腰の曲がったおばあちゃん。


「まぁ、篠原真人様の執事さん」


「今日は立花の代わりに僕が来ました」


「お待ちしておりました。お部屋にご案内します」


着物姿のおばあちゃんはゆっくりとした動作で私達を部屋に案内した。

部屋の中に入るとこれまた立派な床の間に生け花が飾られている。

多分、こんなところ絶対にもう来れないな。

貧乏人の私にはとても耐えられない。


「少々お待ちください」


あっ、また二人になるの?

おばあちゃんはここにいておくれよ。

他の人に頼んでよ。


「ねぇ、なんでそんな端いるの?真ん中に来て」


「いいえ。家政婦なので」


「いいから来て」


「はい」


離れたいのだよ。

気づけよ。


「達美様の着物を直して真人様が着るんだ」


「そうですか」


「23番は着物持ってる?」


「持ってないです」


「成人式のときは?」


「着物ですけどレンタルでした。着物は高いので」


「えーーっ。いい感じに乱れた姿が見たかったのに」


お前は本当に執事をやめろ。

そしてそっち系の仕事でもしてろ。

そう言いたい!でも言えない。下っ端は辛いよ。


「女の乱れた姿っていいよねぇ。僕は着物姿が好きなの。洋服も好きだけど、やっぱり色気は着物だよね。髪も上に結ぶから首回りが見えて最高」


は、始まった!こいつはこれしか頭にないのか!


「着物を脱がすときも最高だよね。帯を強引に引っ張ってどんどん乱れていくの。あぁ、想像しただけで興奮しちゃう。着物を脱がしながら髪も乱れてさぁ」


「それ以上言わないで下さい。ここがどこか分かってますか?しかも、仕事中ですよ」


「うん?うん。そうだね。でも、今は君と二人っきりだし。いいかなって」

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