第17話 私の好きな人だから
「あれれ? 君、ナンパした時一緒にいた子じゃ~ん。なんでここに~?」
「たまたま修太朗くんが連れ去れたところを目撃した人がいてね。ボクに教えてくれたんだ」
4位様は「ふーん?」と肩を竦める。
「人に見られちゃってたか~。まあ、白昼堂々だったし~? 仕方ないかぁ~」
「警察に突き出されたくなかったら、彼を解放してもらおうか」
「助けて揚羽様ぁぁぁぁ」
俺が情けなく助けを求めると、「さっきの威勢はどこへ」と4位様がじゃっかん引いていた。
うええぇぇん、怖かったよぉぉぉ……。
「いやだ、と言ったらぁ?」
「警察に通報する」
揚羽はスマホをすでに準備していて、いつでも通報できるよう待機している。
「おらぁ! 警察沙汰にしたくねぇだろぅ!? さっさと俺は解放しろやぁ!」
4位様は「違う意味で威勢がよくなった」と呆れた目で俺を見る。ならうように、揚羽も「うわぁ」と、どうしようもないものを見る目で俺を見てきた。
俺、被害者なのにひどくね?
まあ、なにはともあれこれで助かる!
やったぜ!
「あはっ。でも、ざんね~ん。うちのパパ、ちょ~っと警察に伝手があってね? 通報しても、君たちが想像しているような展開にはならないかなぁ~?」
おい、嘘だろ。
「そんなの反則だぁ!」
「そうだそうだー!」
俺と揚羽が抗議の声をあげるも、「ごめんねぇ~?」と4位様は勝ち誇ったような笑みを浮かべるだけだった。
「むしろ、うちが通報して君たちを捕まえることもできるんだよ? 罪状なんかいくらでもでっちあげることができるんだからね?」
なんてこった。
これで助かると思ったら、国家権力によってむしろにピンチになってしまった。
籠乃女子――正直、ちょっと舐めてたぜ。
「揚羽! なんとかならないか!?」
「ふっ……」
「その意味深な笑みは、なにかあるってことなんだな!?」
「こうなったら奥の手を出すしかなようだね」
「一体その奥の手とは!?」
「土下座して君を解放してもらうんだ!」
「お前なにしにきたんだよ」
「国家権力には敵わないよね」
「それはそう」
しかし、土下座程度で逃がしてくれるだろうか?
「え? 解放しないよ?」
やっぱり4位様は、そんなことで俺を解放してくれる気はなさそう。
「にしても、おかしいねぇ……こんなこともあろうかと、ここに人が寄りつかないように、ガラの悪い人たちを置いておいたはずなのに……」
「ああ、それはこちらの方々のことでございますか?」
4位が呟いた直後、揚羽の後ろから執事服に身を包んだ女性が、両手で2人の男を引きずって現れた。
女性は「どさっ」と男を4位の前に放り投げる。見たところ、男たちは気絶させられているようで、「もう食べられないよ」などと呟いている。いい夢見ろよ。
一体、彼女は何者なのだろうか?
「……見たところ、どこぞの飼い犬みたいだけど。一体、飼い主は誰なのかなぁ~? こんな行儀のなってないバカ犬を飼ってるのは」
「私の主人ならこちらに」
「?」
執事服の女性がすっと横にずれると、見慣れた金糸の髪を靡かせた美女が現れる。
九条院先輩だ。「なにか用?」と相変わらずぬぼーっとした表情で、首を傾げている。
さてはて、4位の反応はというと――。
「がたがたがたがたがたがた」
めちゃくちゃがたがたと言いながら、がたがたと震えていた。
額には汗がびっしりで、手足は異常なほど痙攣し、全身から血の気が引いたかのように表情は真っ青だ。
「く、九条院先輩……!? ど、ど、どうして……」
「彼が、連れ去れたから。助けにきた」
「た、助けに!? 一体、九条院先輩と、彼にどんな関係が!?」
「私の好きな人」
「「え」」
と、同時に素っ頓狂な声をあげたのは俺と揚羽。
「だから、困ってるなら助ける。好きな人だから」
2回も言われてしまった。
「お嬢様。彼女、どうやら警察に伝手があるそうで」
「そう。なら、大丈夫。私の方で、なんとかするから」
「とのことですので、八百万様は千葉様の拘束を解いて差し上げてください」
揚羽は執事の人に言われて、「分かりました!」と戸惑いつつ俺のもとへ駆け寄ってきてくれる。
「悪い……ありがとうな」
「気にしないでよ、友達だろう?」
「揚羽……」
「ええっと、ここがこうなってて、ああなってるから……」
「揚羽さん?」
「……この縄、解けない」
「……」
「ボク、なにしにきたんだろう」
「いや、そう言うな。助けにきてくれて、嬉しかったよ」
「……本当かい?」
「ああ、揚羽が来てくれた時、すごく安心した」
「そ、そっか」
揚羽は照れたのか顔を背けてしまった。
※
その後、解放された俺は揚羽と一緒に、九条院先輩の車で最寄り駅まで送ってもらった。
駅までの間に、執事の人から聞いた話だが、もうあの4位は俺にちょっかいをかけてくることはないとのこと。
次に手を出したら九条院家が潰すと脅しをかけたらしい。
「潰す?」
「文字通りの意味でございます。彼女の家に、たくさんの重機が並ぶことになるでしょう」
よし、九条院先輩は怒らせないようにしよう。俺は心にそう誓った。
ちなみに、俺が連れ去られるところを見たのは、九条院先輩だったらしい。それを見た九条院先輩は、ちょうど近くを通りかかった揚羽と一緒に、ここまで助けに来てくれたとのこと。
本当はすぐ助けに行きたかったが、途中でガラの悪い男たちに通せんぼされて、遅くなった――いやほんと、俺が助かったのは運がよかったからだなこりゃ。
そんなこんなで俺たちは無事に駅まで到着。
「またね」
と九条院先輩が車窓から手を振って、車が発進。その場に残った俺たちは、ここで別れるはずなのだが――。
「で、さっきのどういうことかな? 修太朗くん?」
「……」
まあ、そうなりますよね。
「九条院先輩のことだよな?」
「もちろん。好きって言ってたよ!? 好き好き大好きあいらぶゆ~って!」
「そこまで言ってないだろ」
「まあ、九条院先輩からはそんな気配があったけどさ……君、同盟のこと忘れてないだろうね?」
「あ、当たり前だろ。忘れてない。俺は恋愛なんてするつもりないよ」
「にしては、車の中じゃ九条院先輩にべたべたされて、満更でもなさそうに見えたけどぉ~?」
「そりゃあ美女にべたべたされたら鼻の下くらい伸びるとも。だって、男の子ですもの」
「男って誰でも鼻の下を伸ばすの?」
「伸ばすよ」
「最低じゃん」
しまった。揚羽の中で、全男の評価が下がってしまった。
「それ、ボクでも……よかったりする……?」
「え? あ、まあ……そうだな。揚羽なら鼻の下が地面まで伸びる」
「はいライン越え」
「罠じゃん」
俺は100円を支払った。
「でも、ほんと同盟のことは忘れてないから。俺は恋愛しないよ」
「そっか。なら、今はその言葉を信じてあげる」
「……」
ちくりと、一瞬胸が痛んだ。
「じゃあ、ボクは帰るよ。君も連れ去られたばかりなんだ。気を付けて帰りたまえよ」
「お、おう」
「また明日」
「……また明日な」
俺は揚羽に別れの言葉を告げて、改札を通る。ふいに、振り返るとまだ揚羽がその場に残っていて、俺と目が合うと、照れたように手を控えめに振った。
そんな彼女を見ながら、俺は先ほどからドキドキしっぱなしな胸を抑えた。
恋愛なんてしない。
だったら、このドキドキはなんなのだろうか。
「俺、もしかして……揚羽のことを……?」
※
あとがき
すっかりコロナから回復したので、来週からは更新ペースをもうちょっとあげたいと思っております。
よろしくお願いいたします。
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