第45話

公認心理師として地元の大学病院で働き始めて3年目の春、私は待ちに待ったギフトの新薬の治験者に選ばれた。

……とはいっても、旋風のギフトの能力者は稀少であり、どちらかというと企業側からお願いされた形に近い。


私は二つ返事で了承した。

治験とはいえ、やっと長年の悩みから解放される。

心理学を学ぶ過程で様々な感情コントロールの方法を身に着けたけれど、ときおり暴走しそうになる能力を完璧に抑えられるわけではない。

薬で抑制できるなら、それを使わない手はなかった。


説明の面談は午後一番だったので、私は指定した面談室でひとり、待機していた。

どんな薬を使うんだろう。

服用は簡単だろうか。

痛みや苦しさは?

副作用は?

そもそも本当に効くのかどうか――……


考え込んでいると、コンコンと扉をノックされて我に返った。

いよいよ製薬会社の人たちが来たみたいだ。


どうぞと答えて立ち上がると、失礼しますと男の人の声が聞こえた。

重い引き戸が開けられる。

入ってきたのは男性の二人組だった。

その人を見て私は目を見張る。


「河谷晴さんですね。初めまして、ギフト科学研究センターの梶原です」


前の人に名刺を差し出しされたので、私もはっとして挨拶を返し、名刺を自分のものと交換する。

そしてその後ろからもう一人。


陣場じんば陸です。今日はよろしくお願いいたします」


頭を下げてにっこりと名刺を差し出したのは、ずいぶんと大人になった、スーツ姿の陸くんだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る