第38話

私たちがこっそりそんな会話をしていたとは露ほども知らない陸くんは、マコが元気そうで良かったよな、と私の隣で白い息を吐きながら嬉しそうに語っている。


私の気持ちなんてなんにも知らない陸くん。

私が突然、あなたが好きですなんて言い出したら、いったいどんな反応をするだろう。


でももし振られて、せっかくここまで仲良くなったのに振り出しに戻ったら?

それどころか、嫌われてしまったら?

もう二度と話せなくなってしまったら?


「あーあ、これでいよいよ俺たちも受験生だよなあ」


陸くんは諦めたように呟いた。


「今年はクリスマスも正月もナシか。つまんねー」


まあ今までもそうだったけどさ、とこれまで人を遠ざけていた陸くんは苦笑いする。


今日一日で陸くんは変わったんだと分かった。

自分からクラスメイトによく話しかけに行くし、みんなもそんな彼を受け入れていた。

私が学校を休んでいる間に、彼も葛藤していたに違いない。


ふと西の空に一番星が見えた。

夕焼けのオレンジが深い青に変わるグラデーションの中で、ひときわ明るく輝く金の星。


陸くんは私にとっての一番星だ。

クラスが一緒になってからかっこいいな、とは思っていたけど、今の陸くんのほうが私は好きだ。

きっと今の陸くんが、本来の陸くんなんだと思う。


マコちゃんから見ても、私たちは分かりやすく進展した。

もしかしたら、ひょっとして、万が一、という希望が頭をかすめた。


「りっ、陸くん!」


どうしよう。

言ってしまった。

何も知らない陸くんが振り返る。

純粋な瞳が私を見つめている。


「何?」


陸くんはきょとんとして私の次の言葉を待っている。

……もう後戻りはできない。

私は観念して大きく息を吸った。


「陸くんは今年のクリスマス、一緒に過ごしたい人とか、いる!?」


これが精一杯だった。

告白なんて無理だ。

私にはあまりにもハードルが高すぎる。

私は陸くんを直視できない。


「……」


陸くんはぽかんとしたまま黙ってしまった。

失敗した。

やっぱり言わなきゃよかった。

さっきまでの明るい空気が一転して沈黙が重い。


どうしよう、ごまかさなきゃ。

でもなんて言い訳したら。

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