第34話

「まず、喧嘩の件だけど」


マコちゃんは紅茶をひとくち含んでから、真剣な面持ちで説明した。


「隣のクラスのやつが晴ちゃんのことを悪く言ったのにムカついて、私が一発ひっぱたいた。そしたら押さえつけられて2発殴ってきたから、私は3発殴り返した。当たったのは、1発だけだったけど」


「ひぇ……」


私は身震いして慄いた。

ふだんのマコちゃんからは想像もできない。

痛いものと怖いものが苦手で、映画やドラマの暴力シーンすら避けて通るマコちゃんが、自ら手を出したなんて。


「怪我は、左の頬が3日腫れたけど治ったし、蹴られてあちこち痣もできたけど、それもほとんど治った。引っかかれたのがまだ少し跡があるけど、そのうち消えると思う」


聞いているだけで痛々しい。

やっぱり怪我をさせていた。

私が原因で、マコちゃんに長いあいだ痛い思いをさせてしまった。


「マコちゃん、その怪我――」


「治さなくていいからね、晴ちゃん」


マコちゃんは腰を浮かせた私を強く制した。


「これは私の問題なの。いくら腹が立っても、暴力は良くなかったって今なら思う。せいぜい宮っちにチクるくらいで止めておけばよかった」


「まあ、宮っちなら力になってくれたかもな」


陸くんは言う。

担任の宮っちは私たちのことを第一に考えてくれる良い先生だ。

生徒の相談にもよく乗ってくれる。

マコちゃんもうん、と頷いた。


「だから、これは戒めだよ。自分が間違ったことをしたことに対しての……大丈夫、もう痛くないから」


マコちゃんは安心させるように言ったので、私は納得しないものの大人しくうん、と腰を下ろした。


マコちゃんは大人だ。

感情的に突っ走ることなんてほとんどなくて、謹慎の間にきっと冷静になった頭で考えたに違いない。

客観的に考え抜いた上での結論なら、たぶんそれが正解だ。

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