第31話

私たちは向かい合い、もう片方の手も繋いだ。

思わず力がこもる。

初めてすることだ。

うまくいくか分からない。


緊張に抗うように、私は大きく深呼吸をする。


繋いだ陸くんの手のひらは温かかった。

1人なら、きっと無理だって諦めてた。

でも2人なら。

陸くんとなら、成功するって信じられる。


「じゃあ、いくよ」


「おう」


落ち着いて、意識を集中させて。

吹け、と口にすると私たちの足元にほのかな風が発生した。

風の範囲は徐々に広がり、マコちゃんちの庭に植えられた草木がざざ、と揺れる。


少しずつ風は強くなり、やがて落ちていた枯れ葉が巻き込まれ、宙を舞った。

それが私たちを取り巻くように渦を巻く。


「さん、」


制服のスカートがはためいた。

陸くんの巻いたマフラーが持ち上がる。


「にぃ、」


靴の底にわずかな浮遊感。

私たちはぎゅうと手を握り直して、しっかりと目を合わせた。


「いち、」


掛け声が合図だった。


「「飛べ!!」」


びゅう、とひときわ強い風が吹き、私たちはそれに乗った。


風の渦は一気に家の2階の高さに到達し、陸くんはよし、と嬉しそうに頷いた。

足元で吹くつむじ風。

まさに筋斗雲に乗っているみたいだ。


私たちは風の上でバランスを取りながら、ゆっくりとマコちゃんの部屋を目指した。

家じゅうの窓がガタガタと揺れる。

壊してしまわないように、だけど私たちが落ちてしまわないギリギリの力で私たちは風を操った。


こんなに「旋風」のギフトのコントロールがうまくいくのは初めてだ。

やっぱり陸くんのギフトが影響したんだろうか。

それとも陸くんの言う通り、誰かに触れていることで操縦が――……


がらり、と東側の窓の1つが開いた。


「晴ちゃん!? ……と、陸くん!?」


マコちゃんが驚いたように部屋の中から顔をのぞかせている。


「マコちゃん!」


思わず私は呼びかけた。

久しぶりに見た彼女の顔。

血色もいいし、元気そうで安心した。


だけど通常ではありえないこの状況に、私が慌てて「あのね」と説明しようとすると。


「ひとまず、中にどうぞ!」


家が壊れちゃう、と彼女は苦笑いしながら手招きした。

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