第30話

「マコちゃんち、ここだよ」


私たちはマコちゃんの家の前まで来た。

マコちゃんの苗字の「北見」と表札がある。

私は無意識に陸くんの手をぎゅっと握った。

陸くんも応えるように、ぎゅっと握り返してくれる。


私は深呼吸して、ゆっくりとインターホンに指を添えた。

ピンポン、と音が鳴って、こんにちは、晴です、と言ってみたけど反応はない。

家の人はまだ帰っていないのかもしれない。

でも、マコちゃんはいるはずだ。


「マコちゃん、私だよ。晴だよ。陸くんもいるよ」


何度か繰り返してみたけど、家はしんとしていて返事がない。

本当に出かけているんだろうか。

それともやっぱり……会いたくないってことだろうか。


「なあ」


押し黙ってしまった私に、陸くんが声をかけた。


「マコの部屋、どこか分かる?」


「うん、分かるけど……」


2階の、東側に回ったところの、と言うと陸くんは不敵に笑った。


「ならさ、今日ヤスが言ってたやつ、試さないか?」


「え」


――俺、毎日風に乗って登校する


ヤスくんはそう言った。

風に乗る。

筋斗雲みたいに。


そんなギフトの使い方、したことがない。

聞いたこともだ。

けれど興味をそそられた。

試す価値はあるかもしれない。


「俺の浮く力も使ってみる。組み合わせたらうまくいくかも」


私一人だったらやってみようと思わなかったかもしれない。

こんな、まるで魔法みたいなこと。

でも陸くんも一緒なら。


私はうん、と頷いた。


「やってみよう」

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