第29話

「ていうか、なんで陸くんも付いてくるの?」


私は息を整えて隣に立った陸くんを見上げた。

並ぶと陸くんは私よりけっこう背が高い。


「1人より2人のほうがいいだろ。晴が暴走しないためにも」


「うっ」


私は言葉に詰まる。

ごもっとも。

そうだね、と私は頷くことしかできない。


ほんと、陸くんの言う通りだ。

またこの前みたいなことにしないためにも、ストッパー役になる人はいたほうがいい。


「大丈夫だから」


陸くんはおもむろに私の手に触れた。


「俺もいるし、なんとかなるって」


「りっ、陸くん!?」


彼はそのまま手を繋いだ。

そしてなんでもないように歩き出す。


「マコのこと、黙っててごめん。でも、晴が学校に来れるようになるほうが先だと思って」


「う、うん」


いや、あの、ていうか、私いまそれどころじゃないんですけど!!


「今日、晴が学校に来れてよかったよ」


私は必死で頭を働かせる。

安心したように話す彼は、しかも私に歩幅を合わせて歩いてくれているようだった。


「あの、陸くん……その」


「ん?」


何も知らないという顔で微笑まれると弱かった。

もう、分かった!

分かりました!


「……合ってるよ。そんなこと聞いたら私、昨日のうちにマコちゃんちに行ってた」


「お前らほんと仲いいよなー」


陸くんは私の動揺に本当に気が付いていないようで、白い息を吐きながら楽しそうに笑った。


ああ、ほんとに陸くんはちっとも意識してないんだな。

私ばっかりどきどきして変みたいだ。


そこであれ、と私は気が付いた。

おかしい。

いつもこのくらい心が乱れたら、荒れた風が吹きそうなのに。

たまに木枯らしが通りすぎていくけれど、あれはたぶん私じゃない。


「……やっぱりそうだ」


「え?」


「お前、誰かに触れてると風が起きない!」


陸くんは振り向いて目を輝かせた。

そういえば、と私は今までを思い返す。

陸くんに言われるまで考えたこともなかった。


「晴が暴走した日も、今日の朝も……誰かに触れられると、力をコントロールできるんだ」


陸くんは重大な発見をした、と言わんばかりにガッツポーズを決めて目をきらきらさせている。


「これ、科学的に証明できねーかな。もしかしたら大学の研究テーマになるかも」


陸くんは頬を紅潮させて、早口で仮説をまくしたてた。

私はその気迫に圧倒されながら、うん、そうかも、と相槌を打ちながら、なるほど、そういうことかと肩を落とした。


何かを期待していた自分が恥ずかしい。

もしかしたら陸くんも私を……と、一瞬でも勘違いした自分を消し去りたい。

陸くんはいつだって理由があって動いてくれる。

なのに、よこしまな気持ちを抱いてしまったことを申し訳なく思う。


でも、陸くんはどうしてこんなにしてくれるんだろう。

きっと貴重なギフト仲間だからだろうけど、それでもほんの少しの希望を抱かずにはいられない。

それに、ついこの間まで全くの他人だったのに、こんなに話せるようになるなんて想像もしていなかった。

陸くんと繋いだ手は私の熱がこもっていたけど、陸くんはそのことには触れずにそっと握ったまま歩き続けた。

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