第27話

ミズキちゃんにちょっとごめん、と断って、私は鞄からひとつの折り紙を取り出した。

予め飛行機の形に折ってある。


「『旋風』っていって、風を起こすギフトだよ」


私は形を整えた紙飛行機の下をつまんで持ち上げた。


「飛べ」


唱えるとともに手をすい、と空中に滑らせた。

すると小さくて弱い風が吹いて、紙飛行機の動力に加わった。


おおっ、と教室が沸く。

風は静かに吹き続けて、紙飛行機は教室内をゆるやかに旋回する。

ときどき回転したり、空間を縫うように揺れたり、アクロバットな動きをするたびにみんなの中からすげえ、とかやばい、とか声が上がった。


入院中、カウンセラーさんにアドバイスをもらった。

本来「旋風」のギフトは嵐を起こすようなものではなく、ささやかな風が吹く程度のものだ。

みんなの恐怖心を拭うには、そのことをまず理解してもらわなければならない。


そこで用意したのが紙飛行機だ。

直接みんなに見てもらえば、このギフトが恐ろしいものではないって分かってもらえるんじゃないかって。


紙飛行機は何度か教室内を旋回したのち、最後にそっと私の手のひらに降り立った。

こんな感じだよ、と私が言うと、あちこちから歓声と拍手が鳴った。


「すっげーな!!」


大きな声で遮ったのはヤスくんだ。


「それ、練習したら人間も持ち上げられるんじゃね? そんなのが使えたら俺、毎日風に乗って登校するぞ」


「バカ、筋斗雲じゃねーんだぞ」


つーかお前デカいし無理だろ、と突っ込んだのは佐渡くんだ。


「ま、俺なら絨毯浮かせてそれに乗って学校来るけどな」


「アラジンかよ」


二人のやりとりに教室中でわはは、と笑いが起きる。


筋斗雲。

魔法の絨毯。

考えたこともなかった。

旋風のギフトは人に迷惑をかけないようにひたすら抑えるもので、人に見せてはならないもので。


「ね、だから大丈夫」


よっしーは言った。


「おかえり、晴」


「……っ」


涙が出そうになるのを私はぐっと堪えた。

ここで感情が昂ったら、また大きな風を起こしてしまう。

それは避けなければ。

温かく私を迎えてくれたみんなを、傷付けるわけにはいかない。


察したのか、ミズキちゃんが私に抱きついた。

優しくぽんぽん、と背中を撫でてくれる。


「よしよし。痛いの痛いの、とんでけ。……使い方、合ってる?」


ミズキちゃんが私を見たので、私も笑って答えた。


「うん、合ってる」


「そっか!」


ミズキちゃんは白い歯を見せて笑った。


私はぐるりと教室を見渡した。

けれどその中のどこにも、仲良しのあの子の姿が見当たらない。


「マコちゃんは?」


私が尋ねると、明るかった教室の空気が急にずしっと重くなる。

私はなにかまずいことを言っただろうか。


みかねたよっしーが、やがてためらうように実はね、と口を開いた。


「マコ、謹慎中なの」


「……え?」

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